テラーノベル
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昼休みが終わる頃には、遥の頭は朝より重くなっていた。
黒板の文字は滲み、教師の声も遠い。
それでも机に伏せることはしない。
伏せれば目立つ。
目立てば、また何か言われる。
その方が面倒だった。
チャイムが鳴る。
教師が教室を出ると同時に、空気が変わる。
「おい」
名前では呼ばれない。
呼ぶ必要もない。
遥は顔を上げる。
「これ運べ」
プリントの束が机へ置かれる。
続けて別のファイル。
「ついでに職員室な」
「あと、これも」
一人が言えば、また一人。
机の上はあっという間に紙の束で埋まった。
「早くしろよ」
「授業始まるぞ」
笑いながら急かす。
誰も自分でやるつもりはない。
遥がやるものだと決めている。
断らないから。
断れないから。
遥は黙って荷物を抱えた。
「便利だよな」
「マジで」
「文句言わねぇし」
背中に笑い声が刺さる。
教室を出ても、その笑いだけが耳に残った。
廊下は静かだった。
荷物を抱えたまま歩く。
一歩ごとに身体が重くなる。
熱が上がっている。
それくらい、自分でも分かった。
廊下の途中で足が止まる。
壁へ手をつく。
呼吸が浅い。
胃の奥がひっくり返るように気持ち悪い。
「……」
しばらく動けない。
その横を、生徒が二人通り過ぎる。
一人が遥を見て笑った。
「また具合悪いアピール?」
「昨日も保健室だったじゃん」
「そういうキャラ?」
二人は立ち止まりもしない。
笑いながら歩いていく。
遥は何も言わない。
言ったところで変わらない。
変わったことなど、一度もない。
もう一度歩き出す。
視界が揺れる。
荷物を落としそうになり、慌てて抱え直す。
その拍子に紙が何枚か床へ散った。
「うわ」
近くにいた生徒が顔をしかめる。
「邪魔なんだけど」
拾う気配はない。
足元の紙を避けるように通り過ぎていく。
遥はしゃがみ込み、一枚ずつ拾った。
指先が震える。
息がうまく吸えない。
それでも急ぐ。
遅いと言われる前に。
使えないと言われる前に。
ようやく全部拾い終えた頃には、額から汗が落ちていた。
立ち上がろうとした瞬間、胃の奥が強く波打つ。
思わず口元を押さえる。
喉が焼けるように熱い。
近くで誰かが舌打ちした。
「うわ、最悪」
「こっち来んなよ」
避けるように距離を取る。
心配する者はいない。
手を貸す者もいない。
あるのは、迷惑そうな視線だけだった。
遥は俯いたまま、呼吸を整えようとする。
――早く立て。
――早く終わらせろ。
頭の中で、自分を急かす声だけが繰り返されていた。
コメント
1件
めっちゃ胸が痛くなった……。遥、明らかに体調悪いのに「具合悪いアピール?」って笑われるの、読んでてこっちまで息苦しくなった。自分を急かす声だけが頭の中で繰り返されるラスト、本当にしんどかった。でも、この描写のリアルさがすごい。どこかに助けが来てほしいって思わずにいられなかった。