テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
職員室へプリントを届けて戻る頃には、次の授業が始まっていた。
教室の扉を開ける。
教師が黒板へ向いたまま言った。
「遅い」
「すみません」
「座れ」
それだけだった。
遥は自分の席へ戻る。
椅子に座った瞬間、身体の力が抜けそうになる。
前を向く。
黒板の文字がぼやける。
「……」
ノートを開く。
何を書いているのか、自分でも分からない。
隣の席から小さな声がした。
「昨日倒れたくせに、今日も来てんの」
「休めばいいのにな」
「でも休んだら仕事できないじゃん」
くすくすと笑う。
教師は聞こえているはずなのに、何も言わない。
遥は鉛筆を握り直した。
手に力が入らない。
それでも書く。
書いていれば、少なくとも話しかけられない。
そう思った直後だった。
机の横から紙切れが落ちてくる。
拾う。
そこには雑な字で一言だけ書かれていた。
――使えねぇ。
遥は紙を折った。
捨てる場所を探す。
前を見る。
教師は黒板を書き続けている。
後ろを見る。
誰もこちらを見ていないふりをしている。
遥は紙を筆箱の下へ押し込んだ。
どうでもいい。
そう思おうとする。
けれど、胸の奥には別の感情が残っていた。
悔しい。
腹が立つ。
苦しい。
助けてほしい。
――そんなことを思っている自分が、一番嫌だった。
誰かに助けを求めたら、今まで自分が耐えてきたものが全部無駄になる気がする。
だから黙る。
耐える。
今日も同じように。
そのとき、教室の後ろの扉が開いた。
日下部が戻ってきた。
教師に何か声を掛け、席へ向かう。
途中で遥を見る。
ほんの一瞬。
それだけで、何かに気づいたように足が止まった。
遥はすぐに目を逸らした。
来るな。
話しかけるな。
今は、何も見つけないでくれ。
そう願っているのに。
日下部は何も言わず、自分の席へ戻った。
ただ、その視線だけがしばらく遥から離れなかった。
コメント
1件
第39話、読み終えました…。遥の、助けてほしいのに助けを求めたら全部無駄になる気がするって感覚、すごく分かる。悔しさや苦しさを認める自分が一番嫌、ってところが胸に刺さった。日下部の一瞬の視線、あれがどう作用するんだろう…気になる展開です。更新ありがとうございます、引き続き読ませてもらいます📖