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放課後。
「隼人ー! 一緒に勉強しよ!」
廊下を全力で走る大地を見て、隼人は片眉を上げた。
「お前が? 勉強? 熱でもあるのか」
「期末近いし、ばあちゃんに“赤点取ったら夕飯抜き”って脅された!」
「夕飯命かよ」
二人は半ば強引に図書室へ。
静かな空気に飲まれ、大地は最初こそ真面目に教科書を開いた。
が、ものの十分で——
「ねえ隼人、これって“てんすう”じゃなくて“てんす”って読むとオシャレじゃない?」
「天使かよ。しかもオシャレじゃねえ」
その声に近くの机で勉強していた萌絵と涼が顔を上げる。
「お、リアル“バカップル”勉強タイム!」
「しっ!」
司書さんに怒られる、と涼が小声で注意するが、萌絵の目は輝いていた。
隼人はため息をつきつつ、赤ペンを手に取る。
「いいか、ここは“てんす”じゃなくて“てんすう”だ。あとここの公式は——」
「おお、先生っぽい!」
「褒めても点は上がらん」
気づけば大地のノートは、隼人の丁寧な赤字でいっぱいになっていた。
「すげー、隼人の字きれい!」
「字で褒められてもな」
大地は無邪気に笑い、隼人はペンを止めた。
その笑顔に、胸がまたチクリと鳴る。
図書室の時計が六時を告げる。
「さて、帰るか」
「ありがと、隼人先生!」
大地が勢いよく立ち上がると椅子がガタンと鳴り、司書さんが小さく眉をひそめた。
「……最後まで静かにできねえな、お前」
「だって隼人といると楽しくてさ!」
その一言に、隼人は耳まで熱くなるのを隠すように咳払いした。
萌絵の心の中では――
今日のハイライト:図書室赤ペン指導で顔近っ!
すでに次の妄想が展開中だった。