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夕方、教室の端。カーテンが揺れている。遥が机に頬を乗せ、ぼんやりと空を見ている。

蓮司は教卓に座り、日下部は窓際に立っている。




遥「……なあ、蓮司。おまえさ、なんであいつと一緒にいるの」


蓮司「あいつって、沙耶香のこと?」


遥「他に誰がいる。……あんな、全部見透かしてくる女」


蓮司「うん、そう。そういうとこが好きなんだと思うよ、オレは」


遥「……は?」


日下部「……“好き”って……蓮司が?」


蓮司「珍しい反応だな、日下部。

そりゃあ“好き”だよ。依存してる。……まあ、本人には言わないけど」


遥「なんで? ……おまえ、そういうの、バカにしてんのかと思ってた」


蓮司「“全部見透かされる”のって、怖いよな。でも同時に、楽なんだよ。

何も言わなくても“おまえはこういう奴でしょ”って、先に言ってくれる」


遥「それって……信じられてないってことじゃねえの」


蓮司「違う。“信じる必要がない”ってくらい、知られてるってこと。

オレは、いちいち期待されるのが苦手なんだよ。“変われるよ”とか、うるさい」


日下部「……遥も、そういうの苦手じゃないか?」


遥「……“変われる”って言われるたびに、“今の自分じゃ駄目ってことか”って思ってた。

だから、期待されると殺意湧く」


蓮司「そういうとこ、似てんだよ。オレら。

でも沙耶香は、そういうの全部ひっくるめて、“あんたは変わらなくていい”って笑うんだ。

それが怖くて、安心する。矛盾してるけど、本音だ」


遥「……それ、甘えてるだけだろ」


蓮司「うん。甘えてるよ。……でも、自覚してるぶん、マシじゃない?」


日下部「……自覚してても、逃げてるなら、同じだ」


蓮司「……その通り。

けど、逃げ場所が誰か一人でもあるなら、そこに戻るのも人間だろ」


遥「……オレには、いないけどな。

“全部わかってる”みたいな顔して、こっち見てくるやつなんか……いない」


蓮司「……そうかもな。

でも――“いたら、壊したくなる”んじゃないの、遥」


(沈黙)



無名の灯 余白、三人分。

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