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「守る守るってうるせえからさ、じゃあ今日は“お前らまとめて”遊んでやるよ」
誰かがにやりと笑い、机を蹴った。
「……やめろ」
遥が声を絞り出す。だが、加害者の笑みは止まらない。
「ほら見ろ日下部、こいつ今も必死だぞ? “自分だけでいいから”って顔してる。じゃあさ――両方で試してみようぜ」
ざわ、と輪が狭まる。
逃げ道を塞がれ、ふたりは机の前に押し出された。
「立て。並べ」
強引に肩を掴まれ、遥と日下部は同じ方向に向かされる。クラス全員の視線が突き刺さる。
「おい日下部、こいつの泣き顔、知らなかったんだろ?」
「見せてやれよ、遥。お前がどんだけ“みっともなく”縋ってたか」
遥は歯を食いしばるが、誰かの手が後ろ髪を掴み、無理やり顔を上げさせられる。
夕日に照らされた濡れた目、震える唇――すべてが晒される。
「ほら、守りたいんだろ? じゃあ守ってみろよ、日下部」
「こいつがどんな惨めな真似したか、全部聞いたんだろ? じゃあ今度はお前が証明しろよ」
日下部の胸が締め付けられる。
怒りと悔しさで喉が震えるが、声にならない。
「無理か? なあ遥、どうすんの? “何でもする”って言ったんだろ?」
「だったらさ――お前ら、同じことしろよ。両方で」
嘲笑混じりに投げられたその言葉に、教室がざわつく。
「いいなそれ!」
「どっちが先に折れるか見たい!」
口々に笑いが広がり、嗜虐の期待が渦を巻く。
遥は立ち尽くし、唇を噛んだ。
「やめろ……俺一人でいい……」
震える声に、容赦なく返る。
「違うな。お前が庇うから面白ぇんだよ」
「二人まとめて壊した方が、ずっと楽しいだろ?」
その瞬間、日下部の肩に誰かの手が伸びた。
押し倒されそうになる衝撃に、遥は思わず叫んだ。
「やめろ!!」
声は張り裂け、喉が焼けるほどだった。
だがその叫びさえ、ただの「歓声」として笑いの渦に飲まれていく。
――守るための犠牲も、必死の懇願も。
すべては、嗜虐の遊びを煽る燃料でしかなかった。