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「……日下部くん。俺、休み時間が苦手なんです」
椅子に腰を下ろした男子は、机に置いた手をもぞもぞ動かしていた。
「授業中は平気なんですよ。やること決まってるし、先生が話してるから。
でも休み時間になると、みんな友達同士でワイワイしてて……俺だけ、どこにも混ざれなくて。
本読んでごまかしたり、スマホいじったりしてるけど、ほんとはずっと、居心地悪くて」
日下部はしばらく黙って聞いていた。腕を組んで、目を閉じる。
「……休み時間ってさ、妙にうるさいよな」
日下部がぼそりと言った。
「え?」
「みんな喋ってんのに、自分だけ声を出してないと……そのざわめきが逆にでかく聞こえる。
耳ふさぎたくなるぐらいにな」
男子は思わず目を丸くした。
「……わかります。それ、めっちゃわかります」
「俺もあったよ。教室の音が遠くて、でもやけに耳に刺さる、あの感じ。
休み時間って、ほんとは休める時間のはずなのにな」
男子は少しうつむいた。
「……でも、みんなと混ざりたいんです。ほんとは笑って喋りたい。でも、入るタイミングがわかんなくて。
それで結局、今日も無理だったって……帰り道でめっちゃ自己嫌悪して」
日下部はゆっくり腕をほどき、机に手を置いた。
「……混ざれないときは、混ざらなくてもいいと思う」
男子は驚いた顔をした。
「……でも、それだと、ずっとひとりで……」
「ひとりだからって、劣ってるわけじゃねぇだろ」
日下部の声は低く、真剣だった。
「周りに合わせるために無理して喋るくらいなら、ひとりでいる自分を守ったほうがいい。
……俺はそう思う」
男子は、机に落ちた自分の影をじっと見つめていた。
「……でも、ずっとこのままだったらどうしようって思うんです」
日下部はしばらく考えて、それから言葉を絞り出すように言った。
「……“ずっとこのまま”なんてことはねぇよ。
俺も気づいたら隣に座ったやつと、いつの間にか喋れるようになってた。
タイミングとか考えるより、そういう自然な瞬間が来るのを待ったっていい」
男子は少し目を細めて、息を吐いた。
「……待つ、か」
「そう。無理に入り込むんじゃなくて、自然に出会えるまで待てばいい。
……それまでは、本読んでても、スマホ見ててもいいんだよ」
男子はほんの少しだけ笑った。
「……日下部くんがそう言うと、なんか変に説得力ありますね」
「おい、変ってなんだよ」
日下部はわざと不機嫌そうに言って、視線をそらした。
でもその横顔は、夕日の光に照らされて少し柔らかく見えた。