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案件は、思ったよりも長引いた。
出版社の男が探していたのは、人ではなく「抜け」だった。
取材資料の中で、ある時期だけ、ごっそり空白がある。
「消されたってほど派手じゃないな」
燈が資料をめくる。
「最初から無かったみたいに、きれいに無い」
玲は、同じ箇所を別の資料で照合していた。
「当時の編集長、途中で交代してます」
「理由は?」
「体調不良。公式には」
真琴は椅子に座り直す。
「便利だね、体調不良」
澪は何も言わず、メモを取っていた。
調査対象の名前は、また出てきた。
今度は、別の文脈で。
行政資料。
小さな補助金案件。
申請者の連名の中。
「……ここにもいる」
玲が言う。
「連続失踪事件の、あの人?」
「同姓同名の可能性もあります」
「年齢一致してる?」
「一致してます」
燈が舌打ちした。
「関係ないとは言い切れなくなってきたな」
真琴は、少し考えてから言った。
「でもさ」
全員が見る。
「この事件、もう終わってる」
玲は頷く。
「はい。
裁判も終わって、確定してます」
「犯人は?」
「黒瀬恒一」
澪が、確認するように言う。
「有罪ですよね」
「有罪です」
玲の声は、迷いがなかった。
「じゃあ」
真琴は、そこで言葉を切った。
「今回は、ここまでだ」
燈が眉を上げる。
「踏み込まない?」
「踏み込む理由がない」
真琴は即答した。
「依頼内容は“資料の確認”。
事件の再調査じゃない」
澪は、少しだけ視線を落とした。
「……はい」
玲は、最後に画面を保存してから閉じた。
「公式記録上、問題はありません」
その言い方が、妙に硬い。
真琴は気づいたが、何も言わなかった。
夕方。
木津が顔を出した。
「終わった?」
「一応」
真琴はそう答える。
「ややこしいのは出なかった」
木津は、ほっとしたように息を吐いた。
「ならいい」
一瞬、間があった。
「……連続失踪事件」
木津が、机の上の資料を見てぽつりと口にする。
真琴は視線を上げる。
「名前、出ました?」
「いや」
木津は首を振った。
「出てないなら、それでいい」
燈が、わざとらしく言う。
「触らない方がいいやつ?」
木津は、少しだけ黙ってから答えた。
「終わってる事件だ」
それ以上は言わない。
真琴も、追及しなかった。
「じゃあ、今回は解散だね」
帰り際、澪が振り返る。
「……真琴」
「なに」
「事件って、終わったって言われたら、本当に終わりなんですか」
真琴は、少し考えてから答えた。
「少なくとも、仕事としては」
澪はそれ以上、聞かなかった。
夜。
探偵社に残ったのは、コピーされた資料と、名前だけだった。
連続失踪事件。
黒瀬恒一、有罪。
誰も、それを疑ってはいない。
ただ、距離が少しだけ、縮まった。
——それだけの話だ。