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放課後の相談室に、男子生徒が入ってきた。髪は整っているのに、目の焦点が少し宙を泳いでいる。


「……俺、自分が誰なのか、わかんなくなってきて」


日下部は手を止めずに、「座れ」とだけ言う。


「部活では“ムードメーカー”って言われるし、家では“しっかり者の長男”って扱われる。

でも、本当の俺って……なんなんだろうなって。どれも、俺じゃない気がして」


「それは、いつから?」


「中学くらいからです。周りが俺に“こういうやつ”ってラベルを貼って、

俺もそれを壊すと嫌われると思って、演じ続けた。……でも、もう疲れたんです」


日下部は視線を机の上に落とし、ゆっくり言葉を置く。


「名前って、最初から与えられてるだろ。

でも、それをどういう響きで呼ばれるかは、周りが決める」


男子生徒は黙って聞いている。


「呼ばれ方を変えたくなったら、それはお前が変わりたいサインだ。

“長男”でも“ムードメーカー”でもなく、ただの“お前”として呼ばれたいってな」


「……そんな日、来ますかね」


「来る。けど、先に自分で自分を呼び直すことだ」


男子生徒は、小さく笑った。


「じゃあ……今日から俺は、俺でいいってことですね」


日下部は返事をせず、引き出しから出した紙コップに水を注ぎ、無言で差し出した。

その沈黙は、答えよりも長く、確かな重みを持っていた。



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