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相談室のドアが閉まる音が、いつもより静かだった。
相談者は立ったまま、しばらく動かなかった。
「……ここってさ」
小さな声。
「誰にも言わない?」
蓮司は椅子に座ったまま答える。
「命と犯罪以外は」
「条件重いな」
相談者は苦く笑って、ようやく座る。
「俺の周りさ、
“相談”が裏切り扱いなんだよね」
蓮司は眉を動かさない。
「どういう意味だ」
「家のことでも、部活でも、友達でも」
相談者は指を組む。
「外に話した瞬間、 “あいつ言った”になる」
「チクった扱いか」
「そう」
一拍置いて、続ける。
「しかも内容じゃないんだよ。
事実かどうかも関係ない」
「行為そのものがアウト」
「そう。
“外に出した”時点で裏切り」
蓮司は少し考える。
「閉じた集団だな」
「閉じてないフリして、閉じてる」
相談者は笑わない。
「だから俺、
何があっても“内部処理”なんだよ。
自分で処理。 自分で消化」
「無理なら?」
「黙る」
即答だった。
蓮司は軽く息を吐く。
「相談=敵認定の環境な」
「そうそう」
相談者は肩をすくめる。
「助け求めると、敵側に行った扱い」
「生存戦略としては正しい」
蓮司が淡々と言う。
「え」
「裏切り扱いされるなら、黙るのが一番安全」
「……肯定された」
「現実としてな」
蓮司は続ける。
「でも副作用ある」
「何」
「“信頼”が全部消える」
相談者の視線が動く。
「誰にも本音出せなくなる。
相談できない環境にいる人間は、
最終的に“人”じゃなくて “場所”を信じる」
「……場所?」
「ルール。空気。構造。上下関係」
淡々とした声。
「誰かじゃなくて、
システムに従う生き方になる」
相談者は黙った。
「なあ」
蓮司が言う。
「裏切りって言葉さ」
「うん」
「“仲間”が前提じゃないと成立しない」
相談者は少しだけ顔を上げる。
「……あ」
「最初から対等じゃない場所で、
裏切りは成立しない」
「それって」
「支配だよ」
静かな声だった。
相談者は長く息を吐いた。
「じゃあさ」
「ん」
「俺がここで話すのも、裏切り?」
「外じゃない」
「……そういう問題じゃない?」
「違う」
蓮司は言う。
「ここは“外部”じゃなくて、“避難所”だ」
「言葉重い」
「現実重いからな」
一瞬、沈黙。
「誰にも言えないことってさ」
相談者がぽつりと言う。
「言語化すると、裏切りになるんだよ」
蓮司は即答する。
「逆だ」
「え」
「言語化できない環境が、人を裏切ってる」
相談者の目が揺れた。
「……それ、初めて聞いた」
「だろ」
「ちょっと救われるな」
「救済じゃない」
蓮司は立ち上がる。
「構造の話」
「でも」
相談者は小さく笑う。
「今日は、裏切ってよかった気がする」
蓮司はドアを指さす。
「帰るときは、ちゃんと“元の顔”に戻せ」
「職人かよ」
「サバイバルだ」
相談者はドアノブに手をかけて、振り返る。
「なあ」
「ん」
「ここ来るのって、裏切りじゃないよな」
「違う」
「じゃあ?」
「生存」
短く、それだけ言った。