テラーノベル
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#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
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翌朝、サベリオはリヌスに半ば引きずられるように橋の下へ連れていかれた。
「いいから来いって」
「説明して」
「説明すると逃げる顔してるから」
その言い方が妙に的確で、サベリオは黙るしかない。
星降る橋の真下は、上とは別の世界みたいに暗い。川沿いの細道には湿った土の匂いが濃く、橋板を踏む足音が頭上で鈍く響く。補修のために運ばれた木材が壁際へ立てかけられ、朝の薄明かりを吸いこんでいた。
リヌスは木材の陰へしゃがみこみ、指で上を示した。
「静かに」
「だから何が」
「聞けばわかる」
ほどなくして、橋の上から声が降ってきた。アルヴェだ。その少しあとに、低く抑えたトゥランの声が重なる。
「人手は増やす。増やすが、それでも橋の上へ流しすぎるな」
アルヴェの声には疲れが混じっていた。いつもの強い押し出しより、少しだけかすれている。
「わかってる」
トゥランが応じる。
「俺だって祭りを止めたいわけじゃない。けど、怪我人が出たら終わりだ」
「そんなことは俺もわかってる」
「わかってるなら、一人で抱えるな」
サベリオは思わず息を止めた。表でぶつかり合っている時より、ずっと真剣な声だった。
頭上でしばらく沈黙が落ちる。橋のきしみと、川の流れだけが聞こえた。
先に口を開いたのはアルヴェだった。
「俺が判断を間違えたら、全部俺の責任だ」
「そういう言い方をやめろ」
トゥランの声が強くなる。
「責任者だからって、失敗を一人でかぶるつもりか」
「かぶるしかないだろ」
「違う。だから現場を見てるんだ」
その一言に、サベリオは眉を寄せた。怒っているように聞こえるのに、根っこにあるのは別のものだった。
トゥランは続ける。
「俺が怖いのは、誰かが落ちることだ。板でも照明でも、人でも」
「……」
「祭りの成功より先に、それだけは避けたい」
アルヴェはすぐには答えなかった。やがて、深く息を吐く音がした。
「俺だって同じだ」
「なら最初からそう言え」
「言ったら、弱く見えるだろ」
「今さらか」
わずかに笑うような気配が交じる。険しい会話のはずなのに、その瞬間だけ二人の距離が少し縮んだ気がした。
橋の上の足音が離れていくと、リヌスがやっと顔を上げた。
「な?」
「……対立してるんじゃなかったんだ」
「してるよ。方法で」
リヌスは肩をすくめる。
「でも、怖がってるものは一緒」
サベリオは頭上を見上げた。橋板の隙間から差す光が、細い線になって土の上へ落ちている。
責任を取りたい人と、怪我を出したくない人。ぶつかっているようで、どちらも仲間を守ろうとしていた。ただ言い方が違うだけだ。
「表から見えることと、下から聞こえることって違うだろ」
リヌスが言う。
「お前、最近ずっと正面からぶつかってばかりだから、たまには下から聞け」
その言葉は不思議に胸へ残った。橋の上で起きることばかり見て、橋の下にたまる本音を拾えていなかったのかもしれない。
サベリオはゆっくり立ち上がった。
「ありがとう」
「素直で怖い」
「今だけだよ」
「それも怖い」
リヌスの軽口に少し笑う。笑えたこと自体が、ここ数日の自分には珍しかった。
橋の下で聞いた本音は、風の向きみたいに見えない。けれど、その風を知らないままでは、何度橋の上を直しても同じところへ戻る気がした。