蓮翔「……お前、あの顔でまだ大学来るんだ。すげぇよ、逆に。」
悠翔「……(無言)」
蓮翔「昨日の再生数、見た? 四万超えてた。コメント欄、面白かったぞ。“これは演技じゃない”ってさ。」
悠翔「やめてよ……」
蓮翔「なにが?」
悠翔「もう、やめてって……。あれ、昔のことで……もう……」
蓮翔「昔? いや、これからだろ。“今”が、まだ残ってんだよ?」
悠翔「……(小さく首を振る)」
蓮翔「あー、教授に送るの、ビビってる? でもさ、お前あのゼミで“社会的弱者の語りと映像表現”とか言ってるんだし、ちょうど良くね?」
悠翔「お願い、送らないで……ほんとに……」
蓮翔「……でもさ、俺たちが撮ったの、全部“事実”だろ? 嘘はひとつもない。」
悠翔「違う……あんなの、俺……俺じゃ……」
蓮翔「……じゃあ証明してよ、“今の悠翔”が違うって。」
悠翔「どうやって……?」
蓮翔「簡単じゃん。逃げないでさ、次のも撮らせてよ。」
悠翔「……っ……」
蓮翔「ほら、声出るじゃん。中学の時みたいに泣き声だけになるかと思った。」
蒼翔「……顔、また腫れてんじゃん。カメラ向けたら、いい絵になるな。」
悠翔「……っ、もう……もうやめてよ……」
蒼翔「“やめて”って、なにを?」
悠翔「……全部……動画も……名前も、ばら撒いたのも……」
蒼翔「ふーん。でもさ、あれって、事実じゃん。カメラの前の“お前”、ちゃんと“気持ちよさそう”だったけど?」
悠翔「……(吐き気をこらえるように俯く)」
蒼翔「あ、そうそう。“気持ち悪くなる癖”、直したほうがいいよ。授業中、また震えてたろ。あれ、注目集めるだけだし。」
悠翔「……俺、なにかした……? なんで……ずっと……」
蒼翔「“なにかしたか”じゃない。“お前がどういうふうに見えるか”だよ。お前が“それっぽい顔”してるから、俺たちは撮って、広めてる。それだけ。」
悠翔「……っ……違う……俺は……」
蒼翔「違うって証明すれば? それこそ、次の動画でさ。」
悠翔「……やめて……本当に……無理だから……」
蒼翔「“無理”って言いながら、いつも最後はカメラに収まるじゃん。“慣れた”んじゃないの? 中学からずっと。」
悠翔「……(かすれた声で)慣れてなんか、ない……」
蒼翔「だったら、もっと“苦しそうな顔”しろよ。そのほうが、ウケる。」