テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
遥の家の近く、人気のない公園。夕焼けが差すベンチに並んで座っている。
「……なあ、日曜、映画どう?」
遥が、少し目を伏せたまま言った。
日下部は一瞬だけ、言葉を止めて遥を見た。
「いいけど。おまえ、映画とか、行きたいって思うタイプだったっけ」
「思わない。でも……おまえ、たまに”普通”の話するじゃん。俺、そういうの、別に嫌じゃないから」
日下部はポケットに手を突っ込んだまま、斜め上を見た。
「……じゃあ、そういう日、作るか。週一くらいで。なんか、無理しなくていいやつ」
遥は黙った。
風の音が通り過ぎる。
「……なんで、怒らないの?」
「何に?」
「蓮司のこととか。俺が……最低なこと、したのに」
日下部はベンチにもたれた。
「怒ってるよ。正直。でもな、それ以上に――おまえがなんでそうしたかって、考える方が、今は大事だと思ってる」
遥は小さく笑った。
「……ほんと、バカ」
「うん、バカなんだと思う。けど、それでも付き合ってるからな、俺ら」
遥は目を伏せたまま、ポツリと漏らす。
「……ほんとに、それでいいのかよ。おまえ」
「それでいいって決めたんだよ、俺が」
その言葉に、遥はふっと息を飲んだ。
言い返そうとして、何も出てこない。
ただ、胸のどこかで、わずかに「怖い」が「ぬるく」なった気がした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!