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「優人はまだか!」
手術室で待機していた院長・野中が、苛立ちを隠せず叫んだ。
目の前で横たわる七星の呼吸と脈は刻一刻と弱まり、焦りが胸を締めつける。
「今、ヘリでこちらに向かっているそうです」
「ちっ……ヘリじゃなくて戦闘機で来いと言いたいよ」
野中が吐き捨てたそのとき、遠くでヘリの音がかすかに響いた。
その音は徐々に大きくなり、その後、手術室へ続く廊下に、大きな足音が響き渡った。
「来ましたっ!」
声とともに、優人が勢いよく姿を現した。
「七星!」
青ざめた顔で横たわる七星を見た瞬間、優人は迷いなく手術着へと着替え始める。
準備を終えるとすぐに七星のもとへ駆け寄り、耳元で叫んだ。
「七星! 七星っ、しっかりしろ! 今、助けてやるからな!」
麻酔科医と野中に目で合図を送り、優人はすぐに電気メスを手に取ると、即座に手術へと取りかかった。
これまで見たことのない難手術を見ようと、新人医師だけでなく、ベテラン医師までもがギャラリーに集まってくる。
誰もが息を呑み、固唾をのんでその行方を見守っていた。
しかし優人は、そんな視線などまるで意に介さず、ただ冷静に、淡々と手術を進めていく。
その姿は、かつて自信を失っていた男とは思えないほど堂々としていた。
七星を助けたい――その思いだけを胸に、全神経を指先へ集中させる。
妻・美奈子を亡くしたときと同じ状況であるにもかかわらず、優人は臆することなく、ただ目の前の命に向き合っていた。
その姿を見て、野中は優人がようやく妻の死を乗り越えたのだと確信した。
「おおっ!」
「これはすごい……」
まるで神の手のように、優人の指先は繊細かつ的確に七星の病巣を取り除いていく。
その見事な手さばきに、モニターを凝視していた医師たちからは、思わず感嘆の声が漏れ続けた。
「大丈夫か?」
優人の長時間の集中を気遣い、野中が声をかける。
「大丈夫です。最後までやらせてください」
「……分かった」
野中が頷くと、優人は再び指先に意識を研ぎ澄ませた。
手術が始まって十時間。
時刻は夜の八時になっていた。
勤務を終えた百花は、七星のことが心配で病院へ残っていた。
手術室前の椅子に座る百花の隣には、看護助手主任の杉本もいる。
杉本もまた、勤務後にもかかわらず七星の無事を祈り続けていた。
「七星……」
あまりにも長引く手術に不安が募り、百花は涙ぐみながらつぶやく。
杉本はそっと百花の手を握り、優しくさすった。
「主任……七星、大丈夫ですよね?」
「きっと大丈夫よ。だって尾崎先生が執刀しているんですもの」
「そうですよね……尾崎先生なら、きっと七星を助けてくれますよね?」
「ええ……」
百花は涙を滲ませながら、消える気配のない“手術中”の赤いランプをじっと見つめ続けた。
それから一時間ほどして、七星の手術は無事に終了した。
手術が終わった瞬間、ギャラリーの医師たちから拍手が湧き起こる。
「いや~、感動しました。見事でしたね」
「まさかこの病院でこんな高度な手術が見れるとは……いや、感動しました!」
「遠坂さん、助かってよかった……」
そんな声があちこちから上がった。
一方、手術室では、野中が優人に声をかけていた。
「優人! 見事だったぞ! 本当にありがとう」
「いえ……。間に合ってよかったです」
「これなら麻痺も最小限で済みそうだな」
「はい。やれることは、すべてやり尽くしました」
額に滲む汗をぬぐいながら、優人は晴れやかな表情を浮かべた。
そして七星の手を取り、優しく語りかける。
「七星……もう大丈夫だ。あとは、キミが目を覚ますだけだよ」
少し日焼けした華奢な手をぎゅっと握りしめる。
しかし麻酔の効いた七星に反応はない。
そのとき、看護師が声をかけた。
「先生、今から移動しますね」
「お願いします」
看護師は微笑み、もう一人の看護師とともにストレッチャーを押して手術室を出ていった。
赤いランプがふっと消え、百花と杉本主任は同時に立ち上がった。
ドアが開き、ストレッチャーに横たわる七星が運ばれてくると、二人は駆け寄った。
「七星!」
「七星ちゃん!」
しかし七星は深く眠ったまま、反応はない。
二人が不安そうに見つめていると、優人が姿を現した。
「尾崎先生! な……七星は?」
百花の震える声に、優人は穏やかに微笑んだ。
「大丈夫だよ。病気はしっかり僕が退治したからね」
その言葉を聞いた瞬間、百花の瞳から涙が溢れ出す。
杉本は泣き崩れる百花を支えながら、優人に言う。
「先生……お帰りなさい!」
「杉本主任、ただいま」
二人は静かに微笑み合った。
「じゃ、そろそろ行きますね」
看護師の声に、百花は涙を拭いながら七星のストレッチャーの後を追った。
七星が眠るICUには、着替えを済ませた優人が付き添っていた。
手術が終わってからというもの、優人は一瞬たりとも七星のそばを離れようとはしない。
そのとき、七星のまぶたがわずかに動いた。
「七星! 七星!」
優人は七星の手を握りしめ、必死に呼びかける。
七星はゆっくりと瞳を開いた。
「七星……目が覚めたか?」
「……あれ? 先生……どうしてここに?」
「七星が倒れたから来たんだよ」
「私が……倒れた?」
七星は呟き、そして急に思い出したように目を見開いた。
「あ……私、階段から落ちて……」
「そうだよ。でもそのあと、僕が手術をしたんだ」
「先生が……手術を?」
七星は驚いた表情のまま、必死に記憶をたぐり寄せた。
「あ……そっか……急に激しい頭痛が来て……」
「そうだよ。それでキミは階段から落ちて倒れていたんだ。検査の結果、くも膜下出血だった」
「私が……?」
「そうだよ。だから僕が呼ばれたんだ」
優人はそう言いながら、七星の手をもう一度ぎゅっと握りしめた。
「でも、もう大丈夫だ。僕がしっかり治したからね」
その言葉に、七星がほっとした表情を浮かべる。
「先生が手術してくれたのなら……ばっちりだね」
「うん。もう心配ないよ。だから、早く元気になれ」
七星は安心したように微笑むと、力が抜けたように再び静かな寝息を立て始めた。
その穏やかな寝顔を見つめながら、優人の頬には一筋の涙が静かに伝っていった。
柏木さくら
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瑠璃マリコ
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管野アリオ
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コメント
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助かった😆良かった🥲 優人先生も乗り越えて良かった🥲 マリコさん、ずっと泣いちゃってます、私😭
良かった七星ちゃん助かって 目を開けるまでどきどきしながら読んでしまいました(´∀`*) 杉本主任のおかえりなさいには 奥様の死を乗り越えて医師としてさらに成長した先生へのおかえりなさいと病院へ来てくれてありがとうの意味があるように思いました 乗り越えた優人先生 七星ちゃんにはっきり気持ちを伝えてくださいね
良かった…😭ホントに良かった!! 優人先生が愛の力で救ってくれたーー😭無事に成功して安心しました🥺