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西原衣都
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#大人の恋愛
Jasmine
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その日、優人は病院に泊まり込んだ。
七星の回復を見届けるまでは、東京へ戻る気になれなかった。
そんな優人のもとへ、東京の大学病院の上司から連絡が入る。
明日は手術の予定がないため、休んでも構わないという知らせだった。
これで優人は、明日まで七星のそばにいられる。
夜、優人は一睡もせず、七星のそばに寄り添い続けた。
眠っている時間が多かった七星も、徐々に意識がはっきりしてきて、早朝、再び目を覚ます。
自分のそばにずっといる優人を見つけ、七星は言った。
「先生、東京に戻らなくて大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。明日までこっちにいていいってさ」
「そっか……」
「何か欲しいものはない? ジュースなら飲んでもいいよ」
「じゃあ、リンゴジュースが飲みたい」
「了解」
優人は部屋を出て自動販売機へ向かい、リンゴジュースのパックを買って戻ってきた。
ストローを七星の口元に運ぶと、七星は美味しそうにごくごくと飲む。
「美味しい……」
「もっと飲む?」
「ううん、もういい」
喉が潤うと、七星はほっとしたように微笑んだ。
「私の病気、もう大丈夫なの?」
「ああ。僕がしっかり治したからね。今のところ麻痺もないし、順調だよ」
「よかった……でも、再発とかは?」
「術後一ヶ月様子を見て問題なければ、薬を飲んで経過観察かな」
「そっか……よかった……」
「その間は、おとなしくしていないとだよ」
「うん、分かった」
七星はさらに安心したように息を吐いた。
そこで優人は、胸に引っかかっていたことを切り出す。
「野中院長から聞いたよ。僕に会いに来たとき、同僚の女医と話したんだってね」
七星は現実に引き戻されたように、小さくうなずいた。
「余計な心配させて悪かった。でも誓って言うけど、僕は彼女と付き合うなんて一言も言ってないし、亡くなった妻が彼女に僕のことを頼んだなんて話も聞いてない。だから、信じないでほしいんだ」
七星は真剣な表情で、こくりとうなずく。
「あの女医さん、きっと先生のことが好きなんだね」
「そうかな?」
「そうだよ。だから……私のことが邪魔だったんだと思う」
「たとえそうでも、嘘はついちゃいけないよね。それに、もしキミと出会ってなかったとしても、僕は彼女とは付き合わなかったと思うよ」
「そうなの?」
「うん。たしかに妻とは仲がよかったけど、それだけだ。それに、もし本当に妻に頼まれていたとしても……僕にも選ぶ権利はあるからね」
「あ、ひどい。上から目線」
「当然だろ? キミの手術を完璧にこなした名医なんだから」
どや顔の優人に、七星は思わずくすっと笑った。
そして、少しはにかんだように口を開く。
「また先生に会えて嬉しい」
「僕もだよ。できれば、パジャマ姿じゃないキミに会いたかったな」
「あっ、ひどいっ! それなら私だって、病院じゃないところで先生と会いたかったな」
「例えばどんなところ?」
「うーん……海とか、景色のいいところ……とか?」
「海辺の洒落たレストランとかは?」
「あ! それもいいかも」
「じゃあ、退院したら連れて行くよ」
さらりと告げる優人の言葉に、七星の胸がドキッと跳ねた。
優人は七星の笑顔を愛おしそうに見つめながら、話題を切り替える。
「東京に来たのは、何か用事があったの?」
「うん。お父さんが亡くなったって知らせが来たから」
優人は驚いたように目を見開いた。
そんな出来事に見舞われていたからこそ、七星は自分に会いに来たのだと悟る。
「えっ? いつ?」
「数か月前に癌で亡くなったんだって。だから、遺産相続のことで弁護士事務所へ行ってきたの」
「そっか……。お父さん、君に遺産を残してくれたんだ」
「うん。びっくりしちゃった。離婚したときは無職だったのに、会社の社長さんになってたんだよ」
「すごいな……。でも、七星のことはちゃんと忘れてなかったんだね」
呼び捨てにされた瞬間、七星の胸がドキッとした。
そういえば、意識が朦朧とする中、誰かが“七星”と呼ぶ声が聞こえた気がする。
あれは……優人だったのだろうか。
七星が急に黙り込むと、優人が心配そうに覗き込んだ。
「大丈夫?」
「うん。大丈夫」
「疲れたなら、少し休む?」
「ううん、平気。もっと話したい」
「そっか。それなら、まだここにいるよ」
優人はそう言って席を立ち、窓のカーテンをそっと開けた。
東の空はゆっくりと白み始め、夜明けが訪れようとしている。
窓の外には、あの頃と変わらない青い海と、澄んだ空が広がっていた。
懐かしい景色を眺めながら、優人は軽く伸びをする。
「ねえ先生。私、仕事に戻れると思う?」
「ん?」
「しばらくは無理だよね?」
「まあ、無理しないでいてくれたほうが安心だけどね」
「だったら……しばらくのんびりしようかな」
「いいと思うよ。お父さんの遺産があるなら、しばらくは大丈夫なんだろう?」
「うん。たくさんもらったから、それでやりたいことがあるの」
「やりたいこと?」
「うん。お父さんの手紙にね、“このお金で七星のやりたいことをやりなさい”って書いてあったの」
「へぇ……七星に手紙まで遺してくれたんだ」
「うん」
「で、やりたいことってどんなこと?」
優人が尋ねると、七星はにっこりと笑って答えた。
「古民家カフェ、やろうかなと思って」
思いがけない言葉に、優人は驚いたように目を丸くした。
「そっか……お父さんが残してくれたお金で、夢が実現するんだね」
「うん。せっかくだからチャレンジしてみようかなって」
「いいと思うよ。自営業なら、自分のペースでできるしね」
「うん。私、頑張る!」
窓の外の景色を見つめる七星の表情は、生き生きと輝いていた。
大病を乗り越えたとは思えないほど、力強く、希望に満ちている。
そんな七星の笑顔を見つめながら、優人は――
七星を東京へ連れて帰りたい衝動を、胸の奥で必死に押しとどめていた。
コメント
16件
優人先生のちゃん無し名前呼びに七星ちゃんの反応が可愛い🤗 お祖母ちゃんの残してくれたお家でカフェするのが夢だったもんね😊 優人先生が戻って来るしかないわ👍
古民家なら東京にもあるんじゃないかな?

カフェの勉強と療養を兼ねて優人さん家に同居しないかな?♡ 真面目な2人!!早く想いを伝えて!!