テラーノベル
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月曜日。
雨は上がった。
窓から差し込む朝日が、教室の床を白く照らしている。
紬は席に着くなり、鞄を机の横へ掛けた。
「おはよう」
悠生が隣の席へ荷物を置く。
「……おはよう」
短い返事。
悠生はそれ以上話しかけなかった。
ホームルームが始まる。
先生が今日の予定や連絡事項を読み上げている。
紬の視線は自然と前へ向く。
蒼真。
前を向いたまま、静かに先生の話を聞いている。
姿勢はまっすぐ。
何も変わらない。
変わらないように見える。
(置いていったつもりじゃない)
昨日の悠生の言葉が頭から離れない。
蒼真も。
そうだったのだろうか。
「紬」
先生に名前を呼ばれる。
「次、プリント配ってくれるか」
「あ……はい」
慌てて立ち上がる。
教室が少し笑う。
顔が熱くなる。
プリントを配り終わると、紬はすぐ席に座った。
「珍しい」
悠生が笑う。
「上の空」
「……そう?」
「昨日から」
図星だった。
昼休み。
購買へ向かう途中だった。
廊下の角で、男子生徒が数人立ち話をしている。
「そういや蒼真ってさ」
聞き覚えのある名前に、足が止まる。
「昔、女みたいだったらしい」
「写真見たことある」
「マジで可愛い」
笑い声。
「今は普通なのにな」
「本人絶対嫌がるだろ」
「言ったらキレるかな」
また笑う。
紬は無意識に拳を握る。
その時。
「何してんの」
低い声が割って入った。
蒼真だった。
男子たちが振り返る。
「あ、いや」
「昔の話してただけ」
一人が笑ってごまかす。
蒼真の表情は変わらない。
「そう」
それだけ言って通り過ぎる。
怒りもしない。
笑いもしない。
何もない。
男子たちは、
「怒ってねえじゃん」
「意外」
そう言って去っていく。
紬だけが、その場に残った。
(違う)
違う。
怒っていないんじゃない。
怒れないだけだ。
そう思った。
理由は分からない。
でも。
そんな気がした。
放課後。
昇降口。
紬が靴を履いていると、
「紬」
後ろから蒼真に呼ばれた。
思わず振り返る。
二人きりだった。
「……何」
蒼真は少し言葉を探すように黙る。
珍しかった。
いつもなら、
「これ」
「先生が」
そんな用件だけなのに。
今日は違う。
「お前」
そこで止まる。
紬は待つ。
「……最近」
また止まる。
蒼真は小さく息を吐いた。
「悠生に変なこと聞いてないだろうな」
紬の心臓が跳ねる。
「……なんで」
「答えろ」
低い声。
責めるというより、
確認する声だった。
紬は少しだけ視線を逸らす。
「聞いてない」
嘘だった。
悠生から聞いたわけではない。
盗み聞きした。
だから、
半分だけ本当だった。
蒼真はしばらく紬を見つめる。
やがて、
「……そうか」
短く言って歩き出す。
「蒼真!」
紬が呼ぶ。
足が止まる。
「俺」
言葉が出ない。
何を言えばいいのか分からない。
蒼真は振り返らない。
数秒待って、
何も聞こえないことを確かめると、そのまま歩いて行った。
残された紬は、その背中を見送る。
昔は。
名前を呼べば、
必ず振り向いてくれたのに。
今はもう、
その背中が振り向くことは、ほとんどなかった。
来華
90
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#だてなべ
ゆー
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コメント
1件
ああ…もう、この距離感がじれったくて切なくて…! 紬の「名前を呼べば振り向いてくれたのに」ってとこ、すごく刺さりました。蒼真もきっと何か抱えてるんだろうなって思うと、胸がぎゅっとなる。 悠生くん、いいポジションでいるなあ…。続き、気になります🥀