TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

撮影後の車内は、夜の街灯だけが窓を流れていた。泉は後部座席に座り、ずっと落ち着かない。

今日の芝居は、なんとか最後のカットで取り戻した。だが、その裏で柳瀬の“触れ方”は、明らかに変わりつつある。


運転席に座る柳瀬が、バックミラー越しに言った。


「……視線が落ちてる」


「見てません」


「嘘だな。さっきからずっと、俺の手を見てた」


泉は小さく息を詰めた。

柳瀬の手――ハンドルを握る指の動き。

細かく、正確で、触れられたときの感触を思い出す。


「考えすぎてる。……お前は触れられると、全部そこに持っていかれる」


「……そんなこと」


「ある。今日の首筋も、鎖骨も。わかりやすかった」


柳瀬は車を止めると、後ろを振り向いた。

狭い車内で、その距離は危険なほど近い。


「降りろ」


一言だけ。


車はまだマンション前にも着いていない。

泉が戸惑うと、柳瀬はドアを開けて先に出た。


「今、見ておきたい」


その声が低くて、逆らえない。


泉もドアを開け、冷えた夜気に包まれながら外へ出た。

車の影――街灯の死角。

人通りはなく、暗い。


柳瀬は躊躇もなく泉の手首を取った。

強くはない。だが逃げる選択肢をはじめから奪う持ち方。


「……泉」


名前を呼ぶ声音が違っていた。

指導でも叱責でもない、もっと個人的な気配。


泉は喉が熱くなるのを感じた。


柳瀬の指先が、コートの襟を軽くつまむ。

そして、襟を開くようにして、首元へ手を滑らせた。


「ここ。……さっきの続きだ」


触れられた瞬間、泉の体がわずかに跳ねた。

柳瀬はその反応を面白がるでもなく、ただ静かに見ていた。


「逃げるな」


低く言われ、泉は足を踏ん張る。


柳瀬の指はゆっくり、首筋から喉元へ降りていく。

肌に直接触れているわけじゃない。コートとシャツ越し。

なのに、脳が直接反応してしまう。


「……柳瀬さん、ここ外です」


「大声出してない。誰も見てない。……気にするな」


気にするな、なんて無理だ。

でも、止めることもできない。


柳瀬の手が、喉元から胸元へ――

布の上を撫でるように動く。

どこまで触れるつもりなのか分からない。


泉は思わず柳瀬の腕をつかんだ。


「……っ、や、柳瀬さん」


柳瀬は手を止めず、むしろその腕を泉の指ごと掴み、ほどくように優しく外した。


「触るなって言っただろ。……まだ俺の番だ」


その言い方が体の芯を揺らす。


首元をなぞっていた指は、今度は逆に上へ。

顎の下を親指で軽く押し上げる。


「顔、上げろ」


泉は言われるまま目を上げる――

その瞬間、柳瀬の指が頬に触れた。

熱い。怖い。離れられない。


「泉。……お前はほんとにわかりやすい」


柳瀬はささやくように言う。


「触れられるほど、反応が素直になる。

それが仕事にも、全部出る」


「……悪いってことですか」


震える声で問うと、柳瀬は首を横に振った。


「違う。……俺がそれを、欲してる」


泉の体温が一気に上がる。


「揺れてるお前を見てないと、仕事にならない。

今日みたいに、俺を意識してズレるくらいがちょうどいい」


柳瀬の指が、泉の耳の後ろをなぞる。

それは“仕上げ”みたいにゆっくりで、逃げる余裕を奪う。


「……触れられたら、崩れるだろ」


「……っ、崩れてません」


「崩れてる。自覚しろ。……ほら、今も」


泉の肩は明らかに震えていた。


柳瀬はその震えを手で包み込み、もう一歩だけ近づいた。


息が触れ合う距離。

触れられている場所より、距離の方が恐ろしい。


「帰るぞ。……今日はここまで」


柳瀬が手を離した瞬間、泉の膝がわずかに力を失った。


「続きは、撮影前にやる。

……揺れた状態で芝居に入れ」


拒む言葉が出てこない。

泉の喉は乾き、呼吸は乱れ、ただ頷くしかなかった。


柳瀬は車に戻りながら、振り返りもせずに言う。


「来い、泉。……まだ終わらせる気はない」


泉の体は勝手に動いた。


触れられた場所が、全部、まだ熱い。


――柳瀬の“続き”が怖い。

でも、それ以上に、望んでしまっている。



スポットライトの影で

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

21

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚