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#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
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祭り前日のしずくシェルターは、朝から夕方までずっと慌ただしかった。表では屋台の骨組みが組まれ、裏では追加の椅子が洗われ、奥の机ではニカットが何度も書類の束を確認している。
サベリオは発電機を運ぶ手伝いに回ったが、肝心の荷車が昼を過ぎても着かなかった。約束の時刻を一時間過ぎ、二時間過ぎ、アルヴェの声はだんだん低くなる。
「連絡は」
「入れた」とダニエロが答える。
「道路がぬかるんで遅れてるらしい」
「らしい、で済ませるな」
ぴりついた空気の中、トゥランは人員配置の板を見直していた。橋の上に置く人数を減らすべきだと言い、アルヴェは演出の見栄えが落ちると返す。二人とも声を荒らげているわけではないのに、周りは近づきづらそうにしていた。
その一方で、モルリは鍋のふたを鳴らしながら「腹が減ると機嫌も落ちる」と焼きたてのパンを配り、ヌバーは通りかかった子どもにまで「明日、声出せる?」と声をかけている。騒がしさと張りつめた空気が、同じ部屋の中に混ざっていた。
夕方近く、ようやく発電機が届いた。泥だらけの荷車から降ろした時には、もう皆の肩に疲れが溜まっている。
ジャスパートは受け取った機材を見て顔をしかめた。
「配線、これ、予定の型と違う」
「使えないのか」
「使える。でもつなぎ方を変える」
また予定がずれる。ホレが無言で表を書き直し、サベリオはその横で濡れた床を拭いた。床板は冷たく、手のひらに湿り気が残る。
日が落ちるころ、デシアはシェルターの隅で一人、録音機のデータを整理していた。誰もいない瞬間を見計らうように、サベリオはそこへ行く。
「大丈夫?」
「何が?」
「……いろいろ」
デシアは少しだけ笑った。疲れている顔だった。
「大丈夫じゃないけど、明日が来るのは止まらないから」
そう言ってから、指先で録音機を軽く撫でた。
「全部、ちゃんと鳴ればいいな」
その言葉は祈りみたいだった。
サベリオは何か返したかった。任せて、とでも言えればよかった。けれど今日の混乱を見ていると、その軽い一言では足りない気がした。
外へ出ると、夜気がひやりと頬に触れた。空には雲が増えている。明日の雨は通り雨程度の予報だったが、山の天気はあてにならない。
シェルターの扉の向こうでは、まだ誰かの足音が続いていた。
祭りの前夜なのに、祝いの前の明るさより、崩れる寸前の積み木みたいな危うさのほうが強く見えた。