テラーノベル
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広場の端。
誰かがふざけて動画を回している。
誰かが笑っている。
さっきまで、ただの“暇つぶし”だった。
そのとき。
遥が、ほんの一瞬だけ言う。
「……もう帰っていい?」
静かだった。
大きな声でもない。
反抗でもない。
ただ、確認。
その瞬間、空気が止まる。
「は?」
一人が笑う。
「今なんて?」
「帰る?」
「は?」
笑いが消える。
さっきまでの軽さが、一段だけ冷える。
「お前さ」
「今の流れ分かってた?」
「何その一言」
「マジで空気壊す天才だな」
肩を強く押される。
よろける。
「……壊した?」
その言葉に、誰かが舌打ちする。
「ほらまた」
「自覚ない」
「自分が中心だと思ってんの?」
「帰るって何」
「お前が決める側?」
誰かが腕を掴む。
強く。
「場が回ってたの分かる?」
「みんな楽しかったの分かる?」
「そこに水差すとか何様?」
突き飛ばされる。
体勢を崩す。
笑いはない。
今度は、苛立ちの顔。
「なんでだよ」
「なんで一言余計なんだよ」
「黙って立ってるだけでいいのに」
「なんで存在以上のことしようとすんの?」
遥は混乱している。
帰っていいか、って聞いただけ。
でも。
言われているうちに、確信が揺らぐ。
もしかして。
本当に。
壊した?
「ごめん」
声が出る。
早い。
反射みたいに。
「ごめんって何」
「何が悪いか分かってんの?」
「分かってないよな?」
「分かってたら言わないもんな?」
言葉が次々刺さる。
「お前さ」
「自分がどれだけ邪魔か分かってる?」
「空気読めないならせめて喋んな」
「呼吸だけしてろ」
「それすらうるさいけどな」
笑いが戻る。
でも冷たい。
遥は立ち上がろうとする。
押される。
またよろける。
「立つな」
「反省してる顔しろ」
「今の顔、ムカつく」
顔を掴まれる。
顎を上げられる。
「その“分かってません”って顔やめろ」
「こっちが悪いみたいになるだろ」
理不尽。
でも。
頭の中で別の声が言う。
お前が悪い。
空気を壊したのは事実。
タイミングが悪かった。
余計な一言だった。
みんな楽しかったのに。
なんで言った?
なんで黙ってられなかった?
「なあ」
誰かが言う。
「お前、楽しいときに限って変なこと言うよな」
「分かる」
「場が上がってるときに冷ます」
「才能」
笑い。
遥は言う。
「……壊すつもりじゃなかった」
「だから?」
「結果壊したじゃん」
「つもりとかどうでもいい」
「結果で考えろよ」
結果。
結果。
結果。
頭の中で繰り返す。
自分の意図は関係ない。
周りの反応がすべて。
壊れたと言われたら、壊れた。
「ほんとさ」
「なんでいるんだろな」
「空気壊す係?」
「盛り下げ担当?」
「存在がデバフ」
笑い。
遥は、胸の奥が熱くなるのを感じる。
怒りじゃない。
自己嫌悪。
なんで言った。
なんで聞いた。
なんで余計なことした。
黙ってればよかった。
立ってればよかった。
物みたいに。
「もうさ」
「一回ちゃんと理解しろよ」
「お前が動くと、空気が濁る」
「喋ると、空気が冷える」
「いると、空気が重くなる」
「それ自覚しろ」
遥はうなずく。
何度も。
「……分かった」
「ほんとに?」
「うん」
「何が?」
言葉が詰まる。
何が?
何が悪い?
全部?
存在?
「……俺が、悪い」
小さく言う。
沈黙。
それから、
「やっと言った」
「それそれ」
「最初からそれでいい」
「余計なこと言わなきゃ平和なんだよ」
肩をまた押される。
今度は強い。
倒れる。
笑いが戻る。
さっきまでの苛立ちは消えている。
もう、空気は元通り。
その中で、遥だけが息がうまくできない。
壊したのは自分。
壊しかけたのも自分。
修復に時間を使わせたのも自分。
全部、自分。
本当に?
少しだけ疑問が浮かぶ。
でもすぐ消える。
疑うとまた空気を壊す。
だから、自分を疑う。
自分を責める。
その方が、場は平和。
「なあ」
誰かが笑う。
「次は壊すなよ」
「壊し屋」
「疫病神」
「空気クラッシャー」
笑い。
遥は言う。
「……うん」
それしか言えない。
それが一番安全。
胸の奥で、何かが完全に折れる。
怒りでもなく、
悲しみでもなく、
ただ、
自分が邪魔だという確信だけが濃くなる。
コメント
1件
**はる。です!** 読了したわ。 この話、めちゃくちゃ心臓にくる描写だった……。「帰っていい?」っていう遥の一言から始まる集団の空気の変わり方、読んでてこっちの息が詰まったよ。 「壊したのは自分」「黙ってればよかった」「存在自体が邪魔」って自己を否定していく思考のループ、本当に苦しい。でも「そう考えた方が場が平和」っていう諦めに近い納得の仕方がリアルすぎて、胸が締め付けられる…… この集団の「笑いながら冷たい」感じ、めっちゃ悪質で嫌だわ。でもこういう空気、現実にありそうで怖い…… 遥が自分を疑うことを選んだラスト、すごく重かった。でも、この後どうなるのか気になる……無理しないでほしいけど、読みたいジレンマ🤯
121
あも