テラーノベル
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放課後の教室は、夕陽の赤を浴びて歪んで見えた。
「今日のテーマはさ――“並べて比べる”だ」
軽い調子の声が響いた瞬間、日下部の背筋は粟立った。視線を横にやれば、同じように呼び出された遥が、机の影で息を殺している。
「お前らさ、いつも片方が庇おうとするだろ? あれ、見飽きたんだよ。だから今日は並んで同じことしてもらう。どっちが根性あるか、比べる感じでな」
嘲笑に、周囲から同意の笑いが湧いた。
遥が小さく首を振る。
「……俺がやる。日下部は、巻き込むな」
震えた声。必死の願い。
だが、それを聞いた瞬間に加害者たちの口角はさらに吊り上がった。
「ほら来た。“俺がやる”だって。じゃあ、余計に二人セットが面白ぇよな」
「守る? かっけーじゃん。じゃあ一緒に壊してやるよ」
机を蹴られる音が響き、強引に二人は並べられる。日下部は奥歯を噛み、心臓を押し潰すような圧迫感に耐えていた。
(違う。こんなのは違う。俺が拒めば、遥がまた自分を差し出す……そうしたら、もっと惨めな目に遭わされる)
頭の中でぐるぐる回る。いつもなら「ふざけんな、やめろ」と怒鳴っていたはずだ。だが、今は声が出なかった。
代わりに聞こえてきたのは、遥のかすれ声だった。
「お願いだ……日下部には……」
その瞬間、背中を乱暴に押され、二人は無理やり同じ姿勢を取らされる。強要される動作は拷問に近く、羞恥と屈辱が血の味になって喉を満たす。
「おい、日下部。いつもカッコつけてんだから、ちゃんとやれよ。嫌なら遥に全部やらせるけど?」
耳元で囁かれ、日下部は息を詰めた。
(俺が止めれば……遥が、また……)
わかっている。選択肢はない。
「……わかった」
絞り出すような声に、笑い声が弾けた。
「ははっ! マジで従った! おい、見ろよ、あの顔」
「結局さ、守るとか言いながら並んで同じことしてんじゃん。ダッサ」
遥の顔は青ざめていた。必死に、日下部を見て、首を横に振る。
「だめだ……日下部、やめろ……」
その声に胸がえぐられる。だがもう遅い。
「ほら、揃えて! もっと息合わせろよ!」
怒鳴り声と笑い声。強要される動作は、互いの心を削る鎖となる。羞恥にまみれ、日下部は目の奥が焼けるような痛みに耐えていた。
(俺は……遥を守れてない。どころか、一緒に地獄に落とされてるだけだ……)
周囲の笑いは拍手のように重なり、二人の苦悶を賞賛する。
「守るって何? 結局、同じ土俵に落ちただけだろ?」
「お似合いじゃん、仲良しだな」
遥は唇を噛み切り、血を滲ませながら震えていた。
その姿が、日下部の胸をさらに抉った。
「……もういい、俺がやる。だから遥には……」
日下部が必死に叫んだが、嗤い声がかき消した。
「違ぇよ。二人セットだから意味あるんだよ。片方だけじゃ面白くねぇんだよ」
夕陽が沈む。教室は影に沈み、ただ嗤い声だけが残響のように広がっていた。
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