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#命
ruruha
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#学園
要 九十九
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星キラリ

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眠狂四郎
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五月の連休が終わり、日差しが少しずつ強くなってきた。
美咲は花火部の活動を終え、部室の鍵を職員室へ返しに行った。
三年生になってから、部活の時間の使い方が少し変わった。
受験を意識し始めた部員もいる。活動に来られる日が減った者もいた。それでも、花火部の時間は続いている。
直人がいた頃と同じように、道具を確認して、記録をつけて、次の活動の準備をする。
ただ、部室の隅に置かれた古い資料を見ると、時々あの人の字を探してしまう。
「美咲、帰るで」
廊下から咲希が声をかけた。
「うん、今行く」
職員室から戻り、二人で昇降口へ向かう。
「最近、直人先輩とは会ってる?」
「この前、ちょっとだけ」
「どこで?」
「駅前。向こうが用事でこっちに来ててん」
「二人で?」
「そうやけど」
咲希は美咲の顔を見た。
「ふうん」
「何その顔」
「別に。楽しそうやなと思って」
「普通やって」
「普通ねえ」
「ほんまに普通やって」
美咲は咲希の肩を軽く押した。
「もう、からかわんといて」
「はいはい」
校門を出たところで、咲希と別れた。
美咲は携帯を取り出し、直人とのやり取りを開いた。
直人から連絡が来ていた。
『今週の土曜、時間ある?』
美咲は歩きながら返信した。
『あるで。どうしたん?』
『久しぶりに会わへん?』
『会いたい』
送信してから、自分の言葉を見つめた。
以前なら、こんなに素直に打てただろうか。
少し迷ってから、携帯を閉じた。
すぐに返事が届いた。
『俺も会いたい』
その一文だけで、土曜日が待ち遠しくなった。
土曜日。
待ち合わせ場所に着くと、直人は駅前の時計の下に立っていた。
美咲を見つけると、軽く手を上げる。
「おはよう」
「おはよう。待った?」
「今来たところ」
「ほんま?」
「ほんまやって」
美咲は直人の隣に並んだ。
制服ではない直人を見ることにも、ずいぶん慣れてきた。それでも、学校で会っていた頃とは違う人のように見える瞬間がある。
「今日はどこ行くん?」
「まだ決めてへん」
「え、決めてないん?」
「美咲が行きたいところに行こうと思って」
「急に言われても困るわ」
「じゃあ、歩きながら考えよか」
二人は駅前の商店街へ向かった。
店を覗いたり、気になったものを見たりしながら歩く。途中で美咲が雑貨屋の前に立ち止まった。
「これ、かわいい」
ガラスの小さな花瓶を指差す。
「花瓶?」
「うん。ちっちゃい花を飾るやつ」
「美咲、花飾るん?」
「たまにはな。毎日ちゃんと世話できるかは分からんけど」
「そこは自信ないんや」
「枯らしたら悲しいやん」
直人は店の中を覗いた。
「買わへんの?」
「今日は見るだけ」
「そうか」
店を離れてからも、美咲は何度か振り返った。
「気に入ったん?」
「うん。でも、置く場所も考えなあかんし」
「また今度来たらええやん」
「そうする」
昼食を済ませ、二人は少し離れた公園まで歩いた。
休日の公園には、子ども連れや散歩をする人がいた。木陰のベンチに座ると、風が吹いて木の葉が揺れた。
「学校はどう?」
直人が尋ねた。
「まあまあ。三年生って感じは、まだあんまりせえへんけど」
「進路の話は増えた?」
「増えた。先生からも、そろそろ考えろって言われる」
「考えてるん?」
「一応。でも、まだ決めきれてへん」
美咲は膝の上で手を組んだ。
「やりたいことがないわけちゃうねん。でも、それを進路にしてええんか分からん」
「それは迷うやろな」
「先輩はどうやった?」
「俺も迷ったで。決めたあとも、これでよかったんかなって考えた」
「先輩でも?」
「俺でも」
美咲は直人の横顔を見た。
学校にいた頃は、何でも分かっているように見えた。
部活のことも、後輩への接し方も、花火のことも。
けれど、卒業してから話すようになって、直人にも迷うことがあると知った。
それが少し嬉しかった。
「何笑ってんの?」
「別に」
「顔に出てるで」
「先輩も普通に悩むんやなって思って」
「俺を何やと思ってるんや」
「何でもできる人」
「前にも聞いたぞ、それ」
二人で笑った。
しばらく公園の景色を眺めていた。
直人の手がベンチの上に置かれている。
美咲はその手を見てから、自分の手を少しだけ近づけた。
指先が触れる。
直人はすぐには動かなかった。
美咲の方から、そっと手を重ねる。
直人の指が、ゆっくりと美咲の手を包んだ。
「手、冷たいな」
「そう?」
「うん」
「先輩の手はあったかい」
「そうか?」
「うん」
そのまま、二人は手をつないでいた。
夕方になると、公園を出て駅の方へ戻った。
帰るにはまだ少し早かったため、駅近くの喫茶店に入ることにした。
窓際の席に向かい合って座る。
美咲はメニューを開き、しばらく眺めた。
「何にする?」
「先輩は?」
「コーヒーにしようかな」
「私、ミルクティー」
注文を済ませると、美咲は鞄から携帯を取り出した。
画面には、以前二人で撮った写真が並んでいる。
「これ覚えてる?」
遊園地で撮った写真だった。
「覚えてる。ミケ持ってるやつやろ」
「そう。あれ、まだ部屋に置いてるで」
「白い猫やのにミケって名前なんやったな」
「かわいいからええねん」
「名前の理由になってへんやろ」
「なってるって」
美咲は写真を何枚かスクロールした。
観覧車の中で撮った写真。遊園地の入口で撮った写真。二人で並んで笑っている写真。
「また行きたいな」
「行こか」
「今度は別のところもええな」
「どこがええ?」
「水族館とか」
「ええな」
「あと、花火も見たい」
「それは美咲らしいな」
「花火部やったし」
「今も花火部やろ」
「そうやった」
飲み物が運ばれてきた。
美咲はミルクティーを一口飲み、カップを置いた。
「先輩」
「ん?」
「卒業してから、前より会える時間が減ったやん」
「そうやな」
「学校におった頃は、部活に行けば会えたのに」
「今はそういうわけにはいかへんな」
「うん」
美咲はカップの縁を指でなぞった。
「会える日を決めるのは嬉しいねん。でも、次に会えるまで長いなって思うこともある」
直人は美咲の話を遮らずに聞いていた。
「俺も、会いたいと思うことはあるで」
「ほんま?」
「ほんまや」
「先輩、あんまりそういうこと言わへんから」
「言わんだけで、思ってへんわけちゃう」
美咲は少し俯いた。
「私ばっかり会いたがってるんかなって思うときがあった」
「そんなことない」
直人は落ち着いた声で言った。
「俺も会いたい。けど、毎日学校で顔を合わせてた頃とは違うから、どうしたらええんか考えることはある」
「どうしたら?」
「お互いの生活があるやろ。美咲には学校も部活もあるし、俺にも俺の予定がある。会いたいからって、無理に時間を作らせるのは違うと思ってる」
「無理なんかしてへんよ」
「分かってる。せやから、会えるときに会おう」
美咲は頷いた。
「うん」
その言葉が嬉しかった。
会う回数が減ったからといって、気持ちまで遠くなったわけではない。
それを確かめられた気がした。
店を出る頃には、空が暗くなり始めていた。
駅までの道を歩く。
人通りが少なくなった通りで、美咲は直人の手を握り直した。
「もう帰るんか」
「明日も学校やからな」
「そっか」
「美咲は?」
「私も帰る」
駅の手前で、二人は立ち止まった。
改札へ向かう人の流れが横を通り過ぎていく。
「今日、楽しかった」
美咲が言った。
「俺も」
「また会いたい」
「うん。また会おう」
直人はつないでいた手を離さず、美咲の顔を見た。
「もう少し一緒におりたい?」
美咲は少し考えた。
「うん」
「じゃあ、少し歩こか」
駅前の人混みを離れ、二人は川沿いの道へ向かった。
街灯が水面に細長く映っている。
昼間よりも静かな道だった。
美咲は直人の隣を歩きながら、何度か彼の顔を見た。
「どうした?」
「なんでもない」
「さっきからこっち見てるやん」
「見たらあかんの?」
「そんなこと言うてへん」
「じゃあ見る」
直人は困ったように笑った。
その表情を見て、美咲も笑った。
やがて川沿いのベンチに腰を下ろした。
二人の間には、ほんの少しだけ隙間があった。
美咲はその隙間を埋めるように、直人の方へ寄った。
肩が触れる。
直人は美咲の手を取った。
「美咲」
「ん?」
「最近、会うたびに思うことがある」
「何?」
「前より近くなったなって」
美咲は直人の顔を見た。
「そう?」
「うん。前は、先輩と後輩やったから」
「今も先輩やん」
「それはそうやけど」
直人は少し笑った。
「今は、それだけやないやろ」
美咲の頬が熱くなる。
「……うん」
「美咲は、どう思ってる?」
「私も、前より近くなったと思う」
「そっか」
「でも、まだ先輩って呼んでまう」
「呼びやすいんやろ」
「それもあるけど」
美咲はつないだ手を見た。
「先輩って呼ぶと、最初に会った頃のことも思い出すねん」
「花火部に入ってきた頃?」
「うん。何も分からんかった頃」
「今も分からんことあるって言うてたやろ」
「それはそうやけど、あの頃よりは分かること増えたで」
「そうやな」
「先輩がおったからやと思う」
直人は返事を急がなかった。
美咲は続けた。
「花火のことも、部活のことも。いろんなこと教えてもらった。でも、今は先輩に教えてもらうだけやなくて、一緒におりたいって思う」
言い終えると、急に恥ずかしくなった。
「……何か、変なこと言うた?」
「いや」
直人は美咲の手を握ったまま、少しだけ顔を近づけた。
「嬉しかった」
美咲は直人を見つめた。
距離が近い。
互いの息が分かるほどに。
直人はすぐには触れなかった。
「キスしてもええ?」
美咲は小さく頷いた。
「うん」
直人がゆっくり顔を近づける。
唇が触れた。
短いキスだった。
離れたあと、美咲は目を伏せた。
胸が速く動いている。
「大丈夫?」
「うん」
「嫌やったら言うてな」
「嫌ちゃうよ」
美咲は直人の服の袖をつまんだ。
「もう一回、してほしい」
直人は美咲の顔を確かめるように見た。
それから、今度は少し長く唇を重ねた。
美咲は目を閉じたまま、直人の手を握った。
離れたとき、二人ともすぐには言葉を出さなかった。
「……恥ずかしいな」
美咲が呟く。
「俺もやで」
「先輩も?」
「そらそうやろ」
美咲は笑った。
さっきまで胸の中にあった緊張が、少しずつほどけていく。
それでも、つないだ手は離さなかった。
駅に戻ると、もう帰らなければならない時間になっていた。
「送ってくれてありがとう」
「途中までやけどな」
「それでも嬉しい」
改札の前で、直人は美咲の顔を見た。
「家に着いたら連絡して」
「うん。先輩も気ぃつけてな」
「分かった」
美咲は改札を通る前に、もう一度直人の方を振り返った。
直人はまだそこに立っていた。
手を振ると、直人も手を上げる。
電車に乗り、窓の外を眺める。
さっきのキスを思い出すと、頬が熱くなった。
携帯を取り出す。
『今日はありがとう』
すぐに返事が来た。
『こちらこそ。楽しかった』
『また会いたい』
『俺も』
美咲は携帯を胸元に寄せた。
帰宅すると、父は居間でテレビを見ていた。
「おかえり。遅かったな」
「うん。ちょっと寄り道してた」
「直人くんと?」
美咲は一瞬、動きを止めた。
「……うん」
父はテレビの音量を少し下げた。
「そうか。楽しかったか?」
「楽しかったで」
「ならよかった」
それ以上、父は何も聞かなかった。
美咲は自分の部屋に戻り、鞄を置いた。
ベッドに腰を下ろし、携帯を開く。
直人から新しいメッセージが届いていた。
『今日はありがとう。また会おうな』
美咲はしばらく画面を見つめたあと、返信した。
『うん。次も楽しみにしてる』
送信して、携帯を枕元に置く。
今日のことを思い返す。
手をつないだこと。
近くで顔を見たこと。
キスをしたこと。
どれも、今までとは違う二人の時間だった。
嬉しかった。
けれど、嬉しいだけではなかった。
直人と一緒にいたいと思うほど、もっと近づきたいと思う。
その気持ちがどこまで続くのか、自分でもまだ分からない。
美咲は枕に顔を埋めた。
窓の外では、夜風がカーテンを揺らしていた。
その夜、美咲は何度も携帯を手に取り、直人とのやり取りを読み返した。
画面に残った短い言葉を眺めているうちに、また会いたいという気持ちが膨らんでいく。
やがて携帯を枕元に置き、目を閉じた。
次に会える日が、待ち遠しかった。
コメント
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**リオンより** 第24話、読み終わりました。タイトルの「もっと近くに」がじんわり効いてくる回でしたね。 公園のベンチで美咲の方から指を近づけて、直人がそっと包み込むところ――動作だけで感情が伝わってくる書き方が素敵です。かつては「先輩と後輩」だった二人が、今は対等に手を重ね合う。その距離の縮まり方が自然で、読んでいてこちらまで温かくなりました。 キスのシーンも、「もう一回してほしい」と言える美咲の成長が印象的。恥ずかしがりながらも自分の気持ちを伝えられるようになったのは、直人との時間の積み重ねがあってこそですね。 次に会える日を待ち遠しく思う気持ち、すごく共感しました。二人のペースで距離を縮めていくこの感じ、大好きです。