テラーノベル
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倉庫の暗がりで、遥の膝は震え続けていた。腕の傷、頬の泥、涙でぐしゃぐしゃになった髪。どこにも逃げ場はなく、呼吸のたびに胸が焼けるように痛んだ。
「おい、まだ泣いてんのか?」
颯馬の声が扉の向こうから響く。
「……泣いてねえ……」
俺はうそを吐く。声はかすれ、肩が揺れる。
「嘘だろ? おまえ、ほんとにゴミみてえなやつだな」
颯馬の笑いは冷たく、針のように刺さる。
「……全部、俺のせいだ……」
「そうそう、それでいい」
颯馬は扉を少し開け、影だけ差し込む。
「守れなかったんだろ? 俺たちがやったことも、全部おまえのせい。そう思わなきゃ、やってられねえだろ」
遥は俯き、拳を握りしめた。声にならない嗚咽が漏れる。身体が小さく縮み、冷たい床に爪を食い込ませる。
「……俺が……弱いから……」
「ああ、弱いよ、情けねえよ」
颯馬の声は楽しげで、嘲笑が混じる。
「こんなだから、あの子犬も……」
言葉の最後は途切れた。子犬がどうなったか、わかっている。頭の中で、尻尾を振る姿が一瞬浮かぶ。次の瞬間には、冷たい死のイメージに塗り替えられる。
「……俺なんか殺されても……当然だ……」
涙が止まらない。嗚咽を押し殺すこともできず、ただ自分を責める。
「よし、それでいい」
扉の隙間から颯馬の影が近づく。足音がゆっくりと響き、倉庫内の空気を揺らす。
「おまえ、ほんとに自分を痛めつけるのが好きだな」
颯馬が低く笑う。
「いいぞ、そのまま自己嫌悪に溺れろ。そんで俺の言うこと、ちゃんと聞くんだ」
「お前が泣くたびに、俺たちの楽しみが増えるんだよ」
遥は肩を震わせ、涙を床に落とす。体全体が縮こまり、頭を抱え込む。爪を握った手が腕に傷を作る痛みさえ、心地よく感じる。痛ければ痛いほど、自分が悪いという現実を受け止められるからだ。
颯馬は満足げに笑い、倉庫を出て行く。遥は暗闇にひとり残され、静かに、自分を責め続ける。
「……全部……俺のせいだ……」
声はかすれ、息が詰まるほどに震える。胸の奥の自己嫌悪が、少しも薄まらない。
床に座ったまま、遥は小さく呟く。
「……どうして……俺は……」
答えはない。ただ、自分を責める感覚だけが、全身を覆う。どれだけ痛みがあっても、どれだけ心が削られても、終わりは来ないように思えた。
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