テラーノベル
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#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
114
翌朝、しずくシェルターの大机には紙が山のように積まれていた。
橋の使用条件。誘導経路。雨天時の収容人数。屋台配置。灯りの切り替え順。ホレが徹夜でまとめた表を真ん中に置き、アルヴェとトゥランが向かい合って立っている。
空気は、紙よりも固かった。
「入口演出の人数をもっと絞るべきだ」
トゥランが地図の一点を指で叩く。
「豪雨になれば、この幅で立ち止まられた時点で詰まる」
「絞りすぎたら最初の見せ場が死ぬ」
アルヴェは腕を組んだまま返した。
「橋を入口に使う意味が薄れる」
いつものやり取りだ。二人とも間違っていないせいで、余計に厄介だった。
その場にいた誰もが口を挟みづらい中、サベリオは思い切ってホレの表を手前へ引いた。
「見せ場を残したまま、人をためない方法ならある」
視線が一斉に集まる。さすがに喉が乾いた。
「アルヴェは最初の音と灯りで、橋に上がった瞬間の印象を作りたいんだよね」
「そうだ」
「トゥランは、そのあと立ち止まる人が増えるのが嫌なんだよね」
「嫌というより危ない」
サベリオは表の流れを指でなぞった。
「だったら、橋は『見せる場所』じゃなくて『通す場所』にする。最初の三十秒だけ音と灯りを集中させて、観客は立ち止まらずシェルター側へ流す。見せ場の続きは中で受け取れるように、ジャスパートの灯りとサディオの中継をつなぐ」
ジャスパートが顔を上げる。
「橋の灯りの色をそのまま中へ引っぱれば、途切れた感じは出ない」
サディオも紙へ身を乗り出した。
「鐘の音の遅延を少なくできれば、入口と室内が一つの舞台に聞こえる」
トゥランは腕を組み直し、アルヴェは黙って地図を見つめる。
沈黙が長かった。
やがてアルヴェが息を吐く。
「……俺は、橋の上で全部やりきる形にこだわってた」
トゥランはすぐには答えない。その代わり、指先で避難導線の線をたどる。
「俺も、人を止めないことしか頭になかった」
サベリオは黙って待った。ここで余計な一言を足すと、またこじれる気がした。
先に手を出したのはアルヴェだった。
「判断は俺がする。現場の流し方はお前に任せる」
トゥランはその手を見て、一度だけ苦い顔をしたあと、しっかり握る。
「途中で変な見栄出したら止めるぞ」
「そっちも独断で人を動かすな」
「必要なら動かす」
「必要の線引きは共有しろ」
言いながら二人とも笑っていない。けれど前よりずっと、同じ方向を見ていた。
モルリが小さく拍手し、ヌバーが「おお、こわいけどめでたい」と茶化す。空気が少しほどける。
サベリオはようやく息をついた。
責任の重さは消えない。けれど、誰か一人の肩だけで支える夜ではなくなりつつある。その手応えが、紙だらけの机の上にたしかにあった。
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