テラーノベル
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サディオの作業場は、だいたいいつも何かが危ない。
しずくシェルターの裏手にある古い倉庫には、使い道の分からない金具、切りかけの板、磨いた瓶、針金、樋の部品が山のように積まれている。しかも本人は、その散らかりをまったく気にしていない。
「で、雨を武器にしたいわけだ」
サディオは机の上のネジを指先で転がしながら言った。
サベリオはうなずいた。
「敵みたいに言うなよ」
「毎年敵だろ、雨は」
「今年は味方にしたい」
その言葉に、サディオの目が細く光った。
ちょうどそこへデシアもやってきた。抱えていた録音機を置き、倉庫の中を見回して顔をしかめる。
「……ここ、息をすると口の中が鉄っぽい」
「褒め言葉として受け取っておく」
「褒めてない」
サディオは笑うと、壁際に立てかけてあった長い樋を持ち上げた。
「雨だれは落ちる場所で音が変わる。だったら落ちる先を楽器にすればいい」
そう言って、机の上へ空き瓶をいくつも並べる。細いもの、丸いもの、首の長いもの。中に入れる水の量もばらばらだ。
「これ、叩くんじゃなくて落とすの?」
デシアが聞く。
「叩くより面白い。予測しきれないからな」
サベリオは樋の角度を支えながら、サディオの手元を見た。針金で留めた先から、試しに水を少し流す。最初はただ零れるだけだったが、瓶の口をかすめた瞬間、ぽん、と思いがけず澄んだ音が鳴った。
デシアの目がまるくなる。
「今の、もう一回」
サディオはにやりとした。
「そう言うと思った」
それから一時間、倉庫はほとんど実験室になった。水の量を変え、瓶の位置をずらし、落ちる間隔を測る。ときどきヌバーが顔を出して「何その怪しい秘密兵器」と笑い、モルリが「飲み物の瓶なら返して」と文句を言った。
失敗のほうが多い。びしゃっと派手にこぼれて三人まとめて濡れることもある。けれど、そのたびにデシアは笑いながら録音機を回した。
「失敗の音も使える」
「そこは成功を喜べ」
サベリオが言うと、彼女は肩を揺らす。
「だって、人が慌てる音ってちょっとかわいい」
「僕の悲鳴も入ってるけど」
「それも町の音だから」
夕方近く、ようやく一つの形が見えてきた。屋根の樋から落ちる雨を細く分け、複数の瓶や金属板へ流して、ばらばらなのにひとつながりに聞こえる仕組み。派手な旋律ではない。けれど、しずくが自分の意志で歌っているみたいな不思議な響きになる。
デシアは目を閉じて聞いたあと、ゆっくり息を吐いた。
「これ、好き」
サディオがそっけなく鼻を鳴らす。
「好きだけじゃ困る」
「使いたい。すごく」
その一言で、今度はサディオが少し黙った。
たぶん彼は、自分の作ったものを誰かが本気で必要としてくれる瞬間に弱い。
サベリオはその横顔を見て、ふと笑った。
「雨って、ここまで来ると敵じゃないな」
サディオは樋を軽く叩く。
「最初から敵じゃない。使い方を知らないだけだ」
その言い方は乱暴なのに、妙に真実だった。
倉庫を出るころ、空には薄い雲が広がっていた。今にも一雨きそうな色だ。
デシアは録音機を抱えて、空を見上げる。
「祭りの日、ほんとに降ったら」
「降るだろうな」
サベリオは苦く笑う。
「たぶん」
「じゃあ、その時は」
デシアは倉庫の中の雨楽器を振り返った。
「最悪の天気って顔をさせない」
サベリオはうなずく。
これまで何度も脅威としてしか見えなかった雨が、初めて未来の味方に見えた。しずくの音を消すな、と彼女が怒った日の意味が、やっと自分の手でも分かってきた気がした。
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