テラーノベル
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「……俺、やっぱ普通じゃないんだって思うんすよ」
相談室に入るなり、男子は大げさに椅子へ倒れ込んだ。
制服のシャツはしわくちゃで、鞄のチャックも開けっぱなし。
そのくせ目だけは妙に真剣で、日下部を射抜いていた。
「みんなとテンション合わないし、興味あることも違うし。周りが部活やバイトの話してるときに、俺ひとりでゲームとか動画のことばっか考えてて……。なんかもう、置いてかれてる気しかしなくて」
日下部は机に肘をつき、少し眉を寄せる。
「……で、それが悪いことなのか?」
男子は即答した。
「悪いでしょ。普通じゃないんだから」
日下部は、鼻で笑った。
「“普通じゃない”って、そんなに罪か?」
「だって! 普通じゃなかったら仲間外れになるし、将来だって不安になるし……。みんなに合わせられない俺って、欠陥品なんじゃないかって」
男子の声が震えていた。
その震えの奥に、必死に隠そうとする孤独が透けて見える。
日下部は少し黙ってから、低い声で言った。
「……俺も、たぶん“普通”じゃねぇよ。うまく人に合わせられねぇし、言いたいこと隠すのも下手だし。けどな、普通かどうかより……“お前にとって楽しいかどうか”のほうが大事じゃねぇの」
男子は俯いたまま、机を指でカリカリと引っかいた。
「……楽しい、か」
「そう。みんなと同じ話題に無理してついてって、死ぬほど退屈するより、自分が楽しいことやってるやつのほうが、よっぽど人間らしいと思う」
男子は小さく吹き出した。
「人間らしいって……なんすかそれ」
「知らん。けど、俺はそう思う」
窓の外から部活の掛け声が聞こえてくる。
男子はそれを耳にしながら、まだ少し困ったように笑っていた。
「……欠陥品じゃなくて、人間らしい……か。……なんか、ちょっとマシに聞こえますね」
「だろ。ま、そう思えたなら十分だ」
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