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遥の相談室２

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遥の相談室２

第65話 - 第65話　“ちゃんと傷ついていい理由”が分からない

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2025年12月15日

#BL

#お悩み相談室

#一次創作

#短編

#読み切り

#ドラマ

ruruha

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相談室のドアは、いつもより静かに閉まった。

入ってきた相談者は、椅子に腰を下ろしても背中を丸めたまま、しばらく動かなかった。

遥は視線を上げない。

待つ、というより、場を空ける。

「……俺、弱いんだと思います」

ぽつりと落ちた声は、結論だけを先に言い切っていた。

「いじめとか、虐待とか、そういう“分かりやすい不幸”じゃないんです。殴られたわけでもないし、無視されてるわけでもない。だから……苦しいって言う資格、ない気がして」

相談者は、笑おうとして失敗したような息を漏らした。

「でも、ずっと苦しい。理由が説明できないから、余計に」

遥は机の上に置いたままの手を動かさない。

「何がいちばんきつい？」

問いは短く、逃げ道を塞がない形だった。

「……比べちゃうんです」

相談者は即答した。

「もっと大変な人がいる。もっと頑張ってる人がいる。だから俺のしんどさは、“甘え”だって。自分で自分に言い続けてる」

沈黙が落ちる。

遥はその沈黙を、切らない。

「誰かに言われた？」

「……昔、ちょっと」

相談者は目を伏せた。

「“それくらいで？”って。直接じゃないけど、空気で」

遥は頷きもしない。

ただ、低く言葉を置く。

「傷ってさ、証明できないと認めてもらえないことが多い。でも、感じてる時点で、もう起きてる」

相談者の指が、膝の上で強く握られる。

「俺、自分が傷ついてるって思うたび、恥ずかしくなるんです。被害者ぶってるみたいで」

「それ、逆だ」

遥の声は静かだが、迷いがない。

「被害者ぶらないようにしてる人ほど、自分を削る」

相談者は、ゆっくり顔を上げた。

「……削ってる？」

「“感じないふり”を続けるってこと」

遥は続ける。

「傷ついたって認めると、守らなきゃいけなくなる。でも守り方を知らないと、人はまず“感じる権利”を捨てる」

相談者の呼吸が少し乱れる。

「じゃあ……どうすれば」

「許可を出す」

遥は短く言った。

「“これくらいでしんどいと思っていい”って。理由はいらない」

相談者は唇を噛んだ。

「それ、逃げじゃないですか」

「逃げじゃない」

遥は一拍置いて言う。

「生き延びるための最低条件だ」

しばらくして、相談者は小さく頷いた。

「……今日、ここに来たことも、許していいですか」

「いい」

それだけで十分だった。

相談者が部屋を出たあと、遥は何も書かれていない机の上を見つめる。

“ちゃんと傷ついていい理由”を探してここに来る人は、多い。

そしてその多くが、理由を見つける前に、自分を責めることだけは完璧に覚えてしまっている。