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Jasmine
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昼過ぎ、透也は久しぶりに、義理の弟・新が社長を務める“三木谷エステート”へ顔を出していた。
「ん? 今日は亜希いないの?」
「出かけてますよ、亜美と。推し活の付き添いらしいです」
「そっか~。亜美ちゃんも推し活する歳かぁ」
「今の小学生はませてますからね。それよりお義兄さん。あれから彼女とはどうなったんですか?」
「彼女? 誰それ」
「すっとぼけちゃって。お隣に引っ越してきた、“荒木優子”似のエキゾチック美女ですよ」
「ああ、彼女ね。まあ、うまくやってるよ」
「うまくって、どんな感じなんです?」
「今のところは隣人。でも、月曜からは部下になるんだよな~」
「部下!?」
新が思わず大声を上げ、店内の社員や来客が一斉にこちらを見た。
「す……すみません、失礼しました~」
営業スマイルで頭を下げたあと、新は小声で続けた。
「つまり、彼女はお義兄さんの会社で働くってことですか?」
「うん。偶然なんだけどね。前の職場の業種がどんぴしゃりだったんだ。あ、でも新くんは彼女の前の会社、知ってたでしょ?」
「もちろんです」
「でも教えてくれなかったじゃん」
「そりゃ個人情報ですから。いくら身内でも言いませんよ」
「もう、真面目なんだから~」
透也は新の額を指で軽くツンとつついた。
しかし新は、それどころではない様子だった。
「で? 彼女をロックオンしたんですよね?」
「もちろん。最初に会ったときからロックオンしてるよ」
「今は隣人、そして上司と部下。その先はどう進むつもりなんです?」
「まあ、なるようになるでしょ~」
「そんな悠長なこと言ってると、かっさらわれますよ。あんな美人なんだから」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと見張ってるから」
「本当に大丈夫ですか~? お義兄さんは仕事以外だとふわふわのんびりしてるからな~」
「え? そう? そんなことないと思うけど……」
透也はアイスコーヒーを飲み干し、立ち上がった。
「ごちそうさま。じゃ、またね。亜希によろしく」
そう言って店を出ようとしたとき、新が慌てて呼び止めた。
「今度の実家での夕食会、忘れないでくださいよ! お義母さんに“必ず連れて来い”って言われてるんですから」
「あ、すっかり忘れてた。いつだったっけ?」
「再来週の日曜日です」
「オッケ~! 忘れないよう気をつけるよ。じゃあ、またね~」
透也は手をひらひらと振りながら、駐車場へ向かった。
(おふくろ、また見合い写真を山ほど用意してるんだろうな……)
透也の最近の悩みは、母親の「結婚しろ」攻勢だった。
結婚なんてそう簡単にできるものじゃないのに、母は“誰でもいいから早くしろ”とうるさい。
父が早くに他界した中条家の長男が、いつまでも独身でふらふらしているのが気に入らないらしい。
「まあ、適当にかわすしかないな」
そう呟き、車のドアを開けて運転席に乗り込んだ。
その頃、夏帆はショッピングに出ていた。
月曜から新しい職場へ行くとなると、服や靴を新調しておきたかった。
仕事に慣れるまでは、のんびり買い物に出る余裕はないだろう。
いくつかお気に入りのショップを覗き、靴を一足、ブラウス二枚とパンツを購入した。
どれも仕事に着ていけるデザインだ。
(カフェで軽くお昼でも食べて帰ろうかな)
そう思い、お気に入りの“moonbacks coffee”へ足を踏み入れた。
カフェラテとサンドイッチを買い、窓際の席へ向かう。
そのとき、誰かが夏帆を呼び止めた。
「藤田さん……ですよね?」
振り返ると、“三木谷エステート”で世話になった社長の妻・亜希が立っていた。
「あっ、亜希さん。どうも。その節はお世話になりました」
「こんなところでお会いするなんて、すごい偶然ね」
「ほんと、びっくり! おひとりですか?」
「ええ。娘が今、そこのビルでやってるイベントに参加してるの。だから、ここで時間潰し。藤田さんもおひとり?」
「ええ。買い物が終わったので、軽く何か食べて帰ろうかと思って」
「だったら、一緒のお席でどうですか?」
「わぁ、いいんですか?」
「もちろん」
思いがけない誘いに、夏帆は笑顔で亜希の前に腰を下ろした。
「その後、マンションの住み心地はどう?」
「最高です! 夜は虫の鳴き声が聞こえて風情があるし、風通しもよくて、とても暮らしやすいです」
「それはよかった。あそこの商店街も物価安いでしょう?」
「ええ。同じ都内でもこんなに違うの? って驚きました」
「ふふ。気に入っていただけたようで良かったわ」
「本当にいい物件を紹介していただいて、感謝してます」
サンドイッチを食べながら、夏帆は思い出したように言った。
「あっ、そうそう……実は、再就職先、決まったんです」
「それはおめでとうございます。ずいぶん早く決まったのね」
「はい。たまたま最初に受けた会社とご縁があって」
「へぇ……すごい。会社はお近く?」
「はい。数駅先です」
そのとき、夏帆は亜希が透也の妹だということを思い出した。
「新しい会社は、“Transparent Investment”なんですよ。亜希さんのお兄様の会社ですよね?」
「ええっ? 本当に? それはびっくり!」
「ふふ、私も驚きました。そういえば、マンションでも、お隣さんでした」
「兄が隣なのを黙っててごめんなさいね。マンションのオーナーが隣に住んでるって知ったら、嫌がる方も多いから」
「全然大丈夫ですよ。オーナーさんが近くにいたら、心強いですし」
「それを聞いて安心したわ」
亜希が穏やかに微笑み続けた。
「兄は普段ふわっとしてるけど、仕事に関しては本当に真剣なの。だから夏帆さんが採用されたのも、経歴や適性をきちんと見て判断したんだと思う。決して知り合いだからって採用したわけじゃないから、自信を持って働いてね」
「ありがとうございます。そう言っていただけると心強いです」
二人は目を合わせ、にっこり微笑んだ。
「お客さんにこんなこと言うのは失礼かもしれないけど、夏帆さんとは年も近いし、ただのお客様って感じがしなくて……。よかったら、お友達になってもらえませんか?」
「もちろんです」
「じゃあ、連絡先を交換しましょうか」
二人はすぐに連絡先を交換した。
「なんか嬉しい。この年になって新しいお友達ができるなんて」
「ふふ、私もです」
「お仕事に慣れたら、ぜひ一緒にお食事にでも行きましょうよ」
「はい。ぜひ」
しばらく女同士の楽しい会話が続いた。
別れ際、亜希がふと思い出したように言った。
「私と新はね、大学を出てすぐに結婚したの。でも、新のお父様が経営していた不動産屋が倒産しかけていて……。それを知った兄が資金を援助して立て直してくれたの」
夏帆は驚いた。
「そうだったんですか……。新さんのお父様は?」
「兄が援助したあと、病気で他界したわ。だから新が後を継いで、今は経営も順調なの。夫も私も、兄には感謝してもしきれないのよ」
透也の意外な一面を知り、夏帆は胸を打たれた。
「いいお兄さんですね」
「ええ。自慢の兄なんです。だから夏帆さん、これから兄のこと、よろしくお願いしますね」
あらたまって言われ、夏帆は恐縮しながら答えた。
「中途採用の私なんて微々たる力ですし……それに、私のほうがお世話になる感じなので」
「ううん。あなたのような人が兄の近くにいてくれると思うと、すごく心強いわ。だから、兄のこと、よろしくお願いします」
「はい……。できるだけお役に立てるよう頑張りますね」
亜希の真剣な様子に、夏帆は心を動かされた。
透也は何かと理由をつけて新の店に寄り、経営が順調か気にしているのかもしれない……そう思った。
(へぇ……妹思いの、案外いいひとなんじゃない)
そんな兄がいる亜希のことが、夏帆は心から羨ましくなった。
コメント
14件
透也さんの素敵な一面が知れて、また好感度アップ⤴️ 妹の亜希さんも兄思いの素敵な人😊 きっと温かい家族なんだろうなー✨️ お見合い回避、夏帆ちゃんの出番かな🤭💖
お見合い阻止のために家族会に参加しましょう😆 亜希さんからもお誘いがありそう!
この暖かい世界💕 マリコ先生の世界だわぁ〜 キュ〜ン💕としてくるのよね〜 わくわく☺️