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月曜日。
いよいよ夏帆の初出社の日がやってきた。
家を出た夏帆は、颯爽と駅へ向かった。そのとき、後ろから声がした。
「おーい、夏帆ちゃーん。おっはー!」
振り返ると、透也がこちらへ近づいてくる。
(ど、どうしよう……。平常心、平常心よ!)
金曜日の失態を思い出し、夏帆は頬を染めた。
しかしすぐに気持ちを切り替え、丁寧にあいさつをする。
「中条さん、おはようございます。本日から、よろしくお願いします」
「固い挨拶はいらないよ~、隣人なんだし。さ、行こっか」
「え? 中条さんも電車ですか?」
「うん。この時間はいつも電車だよ」
タクシーで移動する姿しか見たことがなかった夏帆は、少し意外に思った。
肩を並べて歩きながら尋ねる。
「中条さんの勤務は、シフト制なんですか?」
「ううん、基本東京相場かな~。営業や外回りもあるしね。ただ、アメリカで重要な指標があるときや、世界で大きな動きがあったときは夜も出るけどね」
「なるほど」
駅構内に入った二人はホームへ向かい、列に並んだ。
その瞬間、周囲の女性たちがちらちらと透也へ熱い視線を送る。
(すごい……一気に注目の的だわ)
それほどまでに、透也は人目を奪うほど完璧な容姿だった。
カジュアルスタイルでも十分魅力的だったが、スーツを身にまとった彼はさらに洗練されたオーラを放つ。
その色気に吸い寄せられるように、女性たちの視線は彼へ釘付けになっていた。
ほどなくして電車が滑り込んできた。
電車に乗った二人は、吊革につかまりながら会話を続ける。
「そういえば、土曜日に外出した際、妹の亜希さんとカフェで偶然一緒になりました」
「え~? そうなの?」
「はい。お昼を食べながら、少しおしゃべりしました」
「へえ、それはすごい偶然だね~」
「亜希さん、すごく感謝してましたよ。ご主人の会社を救ってくれたのは兄だって……。優しいんですね」
妹がそんなことを話していたと知り、透也は少し驚いた表情を見せた。
「誰だって、身内が困ってたら助けるでしょ」
「そんなことないです。知らんぷりする人だっていますから」
「そうかな~? まあ、うちは親父が若い頃亡くなったんで、俺が父親代わりみたいなところもあるし……。だから、当然のことだよ」
「お父様……早くに亡くなられたんですね。うちと同じです」
「夏帆ちゃんも?」
「はい。うちも母子家庭ですから」
「そうなんだ……」
夏帆が常に明るく前向きな印象だったため、透也は少し意外に感じた。
しかし、自分と同じ境遇で育ったと知ると、胸の奥に親近感が芽生えた。
ちょうどそのとき、電車が会社の最寄り駅に到着した。
二人は改札へ向かいながら、楽しげに会話を続けた。
(初出勤で緊張してたのに、すっかりリラックスしちゃった。ふふっ、雇い主がお隣さんっていうのも、意外と悪くないわね)
そう思いながら、夏帆は透也のあとを追って改札を出た。
――その二人の後ろ姿を、改札近くの柱の陰から覗く人物がいる。結城紗英だ。
紗英は午前中半休を取り、二人のマンションの最寄駅からここまで後をつけてきたのだ。
(やっぱり……駿介さんが言ってたことは本当だったんだ。あんなに仲良さそうに並んで出勤して……。なんなの、あの女! 絶対に許せない!)
そう呟くと、紗英はホームに戻り、すぐに電車へ乗り込んだ。
新しい職場に到着した夏帆は、挨拶を済ませ席へ案内された。
奥にはトレーダーたちの席が広がっており、夏帆の席はフロアの隅に位置している。
面接のときにいた野田が、さっそく引継ぎを始めた。
一通り説明が終わると、彼は夏帆に向き直って言った。
「まず藤田さんにやっていただきたいのは、このあたりかな。分からないことがあればいつでも聞いてください。僕、すぐ後ろの席にいますから」
「ありがとうございます」
「ああ、それと、隣の梶原さんも総務や秘書業務を手伝ってくれてたので、紹介しますね。梶原さん、ちょっといい?」
隣に座っていた梶原が顔を上げ、にっこりと微笑んだ。
「藤田です。よろしくお願いします」
「梶原です。こちらこそよろしく。分からないことはなんでも聞いてね」
「ありがとうございます」
梶原美利は三十代後半ほどの、眼鏡をかけた聡明そうな女性だった。
左手に結婚指輪をはめているので、既婚者だろう。
さっぱりしたとても感じのいい女性だった。
野田が席へ戻ると、美利が椅子を転がしながら近づき、夏帆の耳元で小声で囁いた。
「ひとつ重要なことを教えるわね。ボスへの私用電話は、仕事中は取り次がないこと。これは必須だから!」
「ボスって……中条CEOのことですか?」
「そう。見ての通り、彼、ハイスペイケメンでしょう? だから、いろんな女から電話がかかってくるのよ」
「いろんな女?」
「そう。昔のガールフレンドとか、仕事でちょっと関わっただけの女性とか……ひどいのだと雑誌を見て勝手に会いに来るストーカーまがいの人まで。ほんと、いろいろよ」
美利の言葉に、夏帆は思わず目を丸くした。
透也がモテることは承知していたが、仕事場にまで電話が来るとは非常識にもほどがある。
「分かりました。でも、何と言って断ればいいんでしょうか?」
「ふふ。慣れてないと悩むよね。私はいろんなパターンで言い返してるわ。例えば“今日は婚約者と結婚式の衣装の打ち合わせに出かけております”とか、“今週はバカンスでお休みです”とかね。なんでもいいのよ。とにかく二度と電話がこないようにさえできれば」
「……はあ」
夏帆は呆気にとられた。
そんなにも彼目当てで電話が来るのかと、驚いていた。
美利はふと夏帆を見つめ、問いかける。
「ところで、藤田さんって結婚してるの?」
「いえ……まだ独身ですけど」
「そうなんだ。ふふ、それはよかったわ」
楽しそうに微笑むと、美利は椅子を転がしながら自分の席へ戻っていった。
それから夏帆は、野田に指示されたIR報告書の作成に取りかかった。
これはファンドが投資家や受益者に向けて、運用状況や財務状況を開示する重要な書類だ。
間違いは許されない。
夏帆は真剣な表情で、丁寧に作業を進めていく。
そんな彼女の一生懸命な姿を、透也は少し離れた自分の席から、静かに見つめていた。
ruruha
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コメント
9件
透也さんと電車🚃で初出勤㊗️和みの時間😍楽しいね🎶 その反面有給を有意義に使えないストーカー紗英😤曲がりくねった性分で怖いわ😰 CEOの女除け電話対応も大変だけど、美利さんはいろいろと味方になってくれそう✨透也さんもしっかと見守ってね👀‼️
いよいよ、夏帆ちゃんの初出勤だ~~😃✌ おー!いきなり朝から、透也さんと会って、緊張が和んでよかったわー😆 やっぱり出たか~💦紗英みたいな女が、きっと会社に迷惑電話かけてくるのね😱怖っ💦 むむむ?梶原さんの反応が気になる~😅二人を応援してくれるなら大歓迎だね~⸜(*ˊᗜˋ*)⸝ꔛ♡
紗英に勝手に「許せない」とか言われてもねぇ…💦 泥棒猫の貴女に指図される覚えはないし…😅 読者は皆、貴女の事を許せないと思っているわよ〜!😁😁😁 まあ邪魔なので、駿介と同様、透也さんに退治されて、サッサとどっかに行っちゃってくださいね〜!!⚔️✊😂