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退院当日――。
午前中に病室を出ることになり、うちはスポーツバッグに荷物を詰め込んだ後、お世話に なった先生や看護士さん達に挨拶をすませてからロビーへと向かった。
退院の手続きをすませ、待合室の長椅子でボンヤリと足元の床を眺めていると、
「――キミカ」
男の人の声でうちの名前を呼ぶ声が聞こえた。思わず顔をあげたうちに向かって手を振ったのは――、お父さんだった。 家や童ノ宮では袴姿でいることが多いけれど、この時はフォーマルな普段着。背が高くスラリとしたお父さんにはどっちも良く似合う、とうちは思った。
この病院にうちが担ぎ込まれて、ほんの二時間後、お父さんは出張先の東京から飛んで帰って来た。それからはほぼ毎日、うちの見舞いに来てくれていた。
昨日も、翌日には退院するというのにうちの病室に長時間、居続けて最後は「今日の面会時間はもう終わりですよ!」と看護士さんに追い出されるようにして、トボトボと帰って行った。その後ろ姿が何だかとても寂しそうで、うちはちょっと悲しくなった。
だけど、そんなのも今日で終わり。
「今回は本当に大変だったよね。……かわいそうに」
そっとうちの背中に両手を回しながらお父さんが言う。
小さい子どもみたいに抱きしめられて周りの目が少しも気にならなかったと言えば嘘になるけれど、胸の内側がジンワリと温かくなるのをうちは覚えた。
ソッと見上げたお父さんはちょっと目が赤くなっているような気がした。自然とうちの口元はほころんでいた。
「それでどう? 今、精神的に辛いとか怖い気持ちになってない?」
「全然平気」うちは小さく首を振った。「怖いのは全部、童ノ宮の神様が連れてってくれたし、今はお父さんもおってくれるし」
強がりじゃなかった。素直な気持ちをうちはそのまま、口にしていた。
そっか、と小さく呟きグスッと小さく鼻を鳴らすお父さん。それから足元に置いてあった、うちの入院用の持ち物一式を詰めこんだスポーツバッグを拾い上げる。
「――じゃ、家に帰ろうか」
と柔らかく微笑んでスタスタとお父さんは出口に向かって歩き出す。そのスピードが意外に早く、少し慌ててうちはお父さんのあとを追う。うちはチビで歩幅がお父さんと比べると短いから、ほとんど小走り状態だった。