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放課後。
ドアが開く。
「失礼します」
「どうぞ」
生徒は入ってきて、少しだけ迷ってから座る。
「変な話なんですけど」
「うん」
「友達といるときは普通に楽しいんです」
「うん」
「笑ってるし、話もするし、“今日楽しかったな”って思うんですけど」
そこで少し言葉が止まる。
「家に帰ると」
視線が落ちる。
「急にしんどくなるんです」
日下部はそのまま聞く。
「なんか、どっと疲れる感じで」
「うん」
「別に嫌なことあったわけじゃないのに、何もしたくなくなるというか」
小さく息を吐く。
「楽しかったはずなのに、“なんでこんな疲れてるんだろう”って」
日下部は少し考える。
「それ、普通に起こる」
生徒が顔を上げる。
「普通なんですか」
「うん。人といるときは、無意識にいろいろ使ってる」
「使ってる?」
「気を使ったり、話を合わせたり、空気読んだり。楽しくてもエネルギーは減る」
生徒は少し考える。
「楽しいのに疲れるんですか」
「楽しいのと疲れないのは別」
短く言う。
「むしろ楽しいほど、使ってることもある」
生徒は黙る。
「じゃあ、あのしんどさって」
「反動」
日下部は続ける。
「外で使った分、家で一気に戻る」
生徒はゆっくり頷く。
「なんか、電池切れみたいな」
「近い」
少しだけ間を置く。
「もう一個ある」
「もう一個」
「家は気を抜ける場所だから、疲れが出やすい」
生徒は少し笑う。
「学校であれだったら、やばいですね」
「そうだな」
日下部は軽く頷く。
「じゃあ、どうすればいいですか」
「疲れる前提で考える」
「前提」
「帰ったあとに何もしない時間を作る。無理に元気でいようとしない」
生徒は考える。
「でも、“楽しかったのに疲れてる自分”がちょっと嫌で」
「ズレてる感じがするか」
「はい」
日下部は言う。
「ズレてない。セット」
生徒は少し驚く。
「セット」
「楽しいと疲れるは、一緒に来ることがある」
短く言う。
「だから変じゃない」
生徒は少し肩の力を抜く。
「なんか安心しました」
「うん」
「自分だけおかしいのかと思ってました」
「人とちゃんと関わってる証拠でもある 」
生徒は立ち上がる。
「ありがとうございました」
ドアの前で振り返る。
「またしんどくなったら来てもいいですか」
「いつでもいい」
日下部は答える。
ドアが閉まる。
楽しかった日のあとに来る疲れは、ちゃんと関わった分だけ、あとから返ってくることがある。