テラーノベル
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#デートDV
#幼なじみ
#恋愛
高校の合格祝いに、と言って、瑞月が作ってくれたクッキーは、確かに少しいびつな形のものもあった。けれど、サクサクと歯触りがよく、甘すぎなくてうまかった。聞けば、いとこに手伝ってもらったのだと言う。
これまで会ったことはなかったが、瑞月にいとこがいることは知っていた。時折、瑞月が嬉しそうな顔で彼女のことを話してくれていたからだが、その様子を見ていた俺は、一人っ子の瑞月にとっての彼女は姉のような大切な存在なのだろうと、二人の仲の良さを微笑ましく思っていた。
また、いつのことだったか。そのいとこがおそろいで作ってくれたのだと言って、瑞月が自分と色違いのやや手の込んだビーズ細工のアクセサリーを栞に渡していたことがあった。その時の俺は、瑞月と栞の笑い合う様子を眺めながら、菓子作りだのアクセサリー作りだのと、瑞月のいとこは随分と家庭的で器用な人なのだなと感心していたものだ。
その人と俺が同い年だということを知ったのは、彼女が俺と同じ高校に入学したことを、瑞月から聞いた時だ。特に彼女に関心があったわけではなかったから、そうなんだ、としか思わなかった。
しかし瑞月は言う。
「二人が仲良くなってくれたら嬉しいな」
瑞月は、ただ単純にそう思っただけに決まっている。その言葉に何ら含みがないこともよく分かっていた。けれど、胸の奥にもやもやした感情が広がった。俺と自分のいとこを引き合わせることに、瑞月は何の抵抗も不安もないのかとひどくいらいらした。また、瑞月が俺のことを全く意識していない証拠のようで、胸が苦しくなった。
高山凛。瑞月にとって姉のような存在のいとこ。
瑞月がそうしてほしいというなら、ひとまずは仲良くしてやろうじゃないかかと思い直し、俺はその名前を頭にインプットした。
入学式当日、昇降口に張り出されていたクラス発表の名簿にその名前を探す。俺の名前は二組に、彼女の名前は四組にあった。
入学式が始まった。
式は順調に進み、各クラスの担任が生徒の名前を呼んでいく。その都度返事をして立ち上がり、最後に全員で一礼をする。
そんな流れで二組だった俺たちの番が終わってからは、「高山凛」という名前が呼ばれるその時を、俺は耳を澄ませてじっと待っていた。
「高山凛」
ついにその名前が呼ばれ、少し低めの声が答えた。
俺ははっとしてその方向にちらと目をやり、途端に目を見張った。まさかと思った。菓子作りだのアクセサリー作りだの、そんな話ばかり聞いていたから、俺はずっと勝手にその人は女だと思い込んでいた。しかし、周りより少し背が高いその人物は、学ランを身に着けていた。
男だったなんて……。
心臓が急にドキドキし始めて、落ち着かなくなった。想い続けている瑞月を、他の誰にも奪われたくないという強い感情が湧き起こり、今まで感じたことがないほどの激しい嫉妬心が心の中で渦巻いた。
この時から高山凛は俺のライバルとなった。
「凛ちゃんにはもう会った?」
瑞月にこう訊ねられたのは、入学後しばらくたってからのことだ。
俺は適当にごまかした。
「いや、実はどの人がそうなのか、ちょっと分からなくてさ」
俺が入学した高校は生徒数が多い。だから、クラスが違えば知らない人間がいたとしてもおかしくはない。言い訳めいていると思いながらも、俺はそのことを告げた。
瑞月は俺の言葉を素直に受け取ったようだ。疑問に思った様子は特に見られなかった。
彼女はほんの少しだけ残念そうな顔をした後、ふと何か思いついたような顔をしてこう言う。
「今度、みんなで遊ばない?」
「え?」
俺は戸惑った。瑞月があいつと笑い合っている姿など見たくはない。それが本心だったが、理解あるふりをして頷く。
「あぁ、それも悪くないな」
「わぁ、楽しみ!」
嬉しそうに笑う瑞月の前だ。やむなく穏やかな笑顔を作りはしたが、実際のところ、俺の心は乱れに乱れていた。
しかし、結局そんな機会はないままに俺は高校二年生になった。そして、俺にとっては最悪の事態が起きる。高山とクラスメイトになってしまったのだ。この状況で、彼とまったく関わらないでいることは難しい。敵対心を隠して、普通に高山に接することができるかどうか、まったく自信がなかった。
それなのに、クラス替え初日のホームルームでの自己紹介の後、高山は俺の方にわざわざやって来た。
「はじめまして、高山凛です。久保田君が瑞月ちゃんとご近所で、幼馴染だってことは聞いているよ。これからよろしくね」
「あ、ああ。よろしく」
にこやかに笑顔を浮かべる高山に、俺は強張った笑顔で挨拶を返した。
しかしその数日後、早速俺の気持ちを激しく揺さぶる出来事があった。
その日、用があって出かけた先で、瑞月が男と寄り添って歩く姿を目撃してしまった。それがどんな男か確かめずにはいられなくなり、二人に追いついた俺は瑞月に声をかけた。その男が高山だと知った時は、激しく動揺した。
いとことは恋愛も結婚もありだと改めて気づき、二人の親密な様子に焦りを感じた。瑞月を獲られてしまうんじゃないかと恐怖に近い不安を覚えた。
しかし、高山の恋愛対象については、その一件の後すぐに知ることになり、それ以来彼とは互いを理解し合う親友同士だ。
その時のことが俺たちの間で話題になると、高山は笑う。俺の態度は相当分かりやすく、からかいがいがあったらしい。そして最後に、心配そうな、呆れたような顔をして俺を諭す。
「いつか意識してくれるまで、なんてことを言ってもたもたしていると、脇から持ってかれちゃうんだからね」
「そんなこと、分かってるよ」
言われる度に言い返しながらも、俺はなかなか行動を起こせずにいた。瑞月がそこにいない時間も、彼女の笑顔や声を思い出しては胸苦しさを覚えるようになっていたが、まだ中学生の瑞月に今想いを伝えた結果、拒絶されたらと思うと怖かったのだ。
だから俺は、しばらくの間はこの気持ちを秘めておくことを選んだ。大事に育てられてきた奥手な瑞月が恋に目覚めるのはずっと先のはずだし、俺のこの想いはこの先も変わらないという確信と自信があった。そして何より、瑞月との心地よい関係を、俺はまだまだ手離したくはなかった。
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