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教室の薄暗い照明の下で、遥は机に肘をつき、顔を伏せていた。そこに日下部が静かに座り、近づいてくる気配だけが空気を揺らす。
「……おまえさ、なんでいつも、あんなふうに振る舞うんだ?」
日下部の声は低く、どこか震えていた。
遥は目を伏せたまま、かすかに震える唇を噛んだ。
言葉が出ない。声にならない痛みが胸の奥から押し寄せる。
「……わかんねえよ。オレだって、何が正しいのか、わかんねえ」
遥はゆっくりと顔を上げ、日下部の目を見た。
「でもな……昔から、セックスってのは、“支配”だった。
暴力のひとつ。痛みと支配が混ざって、混ざって、いつのまにか愛とかそういうのとは違うものになってた。
だから……オレはそれを求めてた。痛くても、壊されても、そこに“存在”があったから」
日下部は黙ってその言葉を受け止める。
「おまえは……そうじゃないんだろ?」
「違う。違うけど……でも、それが何なのか、わからなくて。
誰かに優しくされることは……怖い。
“壊される”以外の関係が信じられなくて」
遥の声は細く、震え、時折涙が頬を伝った。
「……オレのこと、どう思ってんの?」
日下部はゆっくりと答えた。
「おまえは、壊れてなんかない。
壊れてるんじゃなくて、壊されてきただけだ。
だから……オレは、おまえのそばにいる。壊さないように」
遥はその言葉に、小さく震えながらも、わずかに頷いた。
痛みと恐怖に縛られた“歪んだ愛”の中で、
ほんの少しだけ、希望の灯がともったように見えた。