TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

それは、いきなり激しくなったわけじゃなかった。


朝、教室に入ったときから、少し違っていた。

視線が刺さらない。

代わりに、存在を前提にした動きが増える。


(……いるの、分かってる感じ)


机の横を通るとき、わざと肩が当たる。

謝罪はない。

足を引っかけられても、誰も笑わない。


(前は、確認してた)


今日は違う。

“当たること”が予定に組み込まれている。


一時間目の移動。

廊下の中央を歩いていただけなのに、前から来た誰かが進路を塞ぐ。


「邪魔」


短い一言。

それだけで、肩を押された。

壁にぶつかる。

軽い衝撃のはずなのに、昨日の痛みが反応して息が詰まる。


(……あ)


謝られない。

代わりに、後ろから誰かが通り過ぎながら言った。


「まだ立てんじゃん」


(基準、そこなんだ)


倒れなければ問題ない。

声を出さなければ、出来事にならない。


授業中、消しゴムが落ちる。

拾おうとした瞬間、足が伸びてきて、手の甲を踏まれた。


「わり」


言い方だけは軽い。


(……わざと)


分かっている。

でも、指摘する意味がないことも分かっている。


昼休み。

弁当を食べようとしていたら、机が揺れた。


「そこ、使うから」


使う、という言葉の意味は曖昧だ。

遥の席なのに。


(……どこ行けばいいんだろ)


立ち上がった瞬間、腹に肘が入る。

殴るほど強くない。

でも、確実に効く位置。


「おっと」


笑い声はない。

ただの動作。


(これが……普通になるってことか)


階段裏。

もう呼ばれもしない。

用事があるのは、向こうだ。


背中を蹴られて、前につんのめる。

床に手をつく前に、もう一発。


「日下部いないからさ」


誰かが、事実確認みたいに言う。


「気にしなくていいんだよな」


(……そうだよな)


否定したかった。

でも、否定できる材料がない。


(俺が、そういう位置なんだ)


息が乱れる。

でも、前みたいに恐怖はない。


(慣れてきてる)


そのこと自体が、少し怖かった。


蹴りは続く。

回数は多くない。

強さも、抑えられている。


(壊す気は、ない)


壊れない範囲で、下に置く。

それが目的。


終わるとき、誰も何も言わない。

足音だけが去っていく。


遥は、しばらく床に座ったまま、呼吸を整えた。


(……俺、何も言わなかった)


言えなかった。

でも、言わなかった。


(自己責任、ってことにされる)


そう思う。

同時に、それを受け入れようとしている自分に気づく。


(それで済むなら、楽だから)


立ち上がる。

制服についた埃を払う。


廊下の先に、人影があった。

日下部だ。


一瞬、目が合いそうになる。

すぐに、逸らされる。


(……ああ)


分かった。

これは、続く。


遠慮は、もうない。

でも、完全に壊す段階でもない。


(……まだ、次がある)


理由は分からない。

ただ、そう感じた。


胸の奥で、微かな違和感が、まだ消えていなかった。

拒絶とも呼べないそれが、

今日も、かろうじて息をしている。

この作品はいかがでしたか?

21

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚