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放課後の教室。誰も帰らない。むしろ全員が残っていた。
机と椅子が無造作に端へ押しやられ、中央にぽっかり空いた空間。そこに立たされているのは、俺ひとり。
「昼間の続きしよーぜ」
「本番はこれからだろ」
誰かの声で、笑い声が連鎖的に弾ける。
背中を押され、壁に叩きつけられる。後頭部がじんと痺れる。
「抵抗しないでよ、逃げても意味ないから」
腕を掴まれ、無理やり膝をつかされる。視線が上から降ってくる。
その目は、同じクラスの“人”じゃない。完全に、獲物を見る目だ。
ポケットや鞄の中身を勝手にあさり、床にぶちまけられる。
「お前ってさ、これでも喜ぶんだろ?」
周囲がわざとらしく囁き合い、俺の表情を探る。
笑いながら、背中や頭を小突く。力加減はしない。
誰かがスマホを構え、写真や動画を撮る。
「記録、大事だからな」
笑いがさらに大きくなる。
この瞬間、俺の苦痛は「ネタ」になり、あとは何をされても消えない。
「立てよ」
言われるがまま立たされると、背後から何人もの手が服を引っ張り、肩を押し、顎を無理やり上げる。
俺が目を逸らすと、頬を平手で叩かれる。
「ちゃんと見ろよ。こっち見ろって」
胸の奥に、言葉にできない熱が溜まっていく。怒りでも悲しみでもない。
ただ、自分がもう“人”じゃないという実感だけが、ゆっくりと広がる。
笑い声は天井で反響し、出口は遠く、誰も助けに来ない。
逃げ場も、味方も、ない。
足を蹴られ、無理やり校舎裏へ引きずり出される。
アスファルトに擦れた膝が熱く、破れたズボンの隙間から血が滲む。
「お前、なんで生きてんの?」
最初の一言が鋭く突き刺さる。
「クラスの空気、全部お前のせいで悪くなんだよ」
「いるだけでムカつくんだよな」
背中を壁に押し付けられ、胸ぐらを掴まれる。
顎を強引に持ち上げられ、逃げようとすると拳が鳩尾にめり込む。
息が吸えない。視界が白くなる。
それでも、耳に刺さる言葉は鮮明だ。
「お前ってさ、誰からも好かれないじゃん」
「気持ち悪いんだよ、目も声も全部」
「家でも邪魔者なんだろ?だからここでも要らねぇの」
笑い混じりの声が重なり合う。
一人が制服の襟を引っ張って乱暴に直視させ、別の奴が靴のつま先で足首を何度も小突く。
小さい痛みが積み重なって、妙に息苦しい。
「お前がいなくなっても、誰も困らねぇよ」
「むしろ清々する」
心臓の奥にまで染み込むような冷たさが広がっていく。
この瞬間、俺はただの人形より価値が低い──そう、彼らが心底信じているのがわかる。
俺自身も、反論できない。
足元に誰かが空き缶を置き、それを蹴って転ばせる。
尻餅をついた瞬間、上から見下ろす視線が鋭く笑う。
「ほら、ゴミは地面が似合ってんだよ」
俺の体の位置も、存在の意味も、すべて奴らに決められていく。
ここでは、俺は俺じゃない。