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翌朝、目を覚ました夏帆は、耳元で聞こえる柔らかな寝息に気づいた。
隣を見ると、透也が夏帆を抱きしめたまま眠っていた。
布団から少しはだけた喉元や、たくましい肩のラインが目に入り、夏帆は胸が高鳴る。
昨夜、男らしい彼の腕に抱かれたことを思い出し、背中がぞくぞくとした。
(信じられない……。まさか、中条さんから告白されるなんて思ってもいなかった……)
昨日の透也の真剣な眼差しを思い出すと、自然と頬がゆるむ。
こんなハイスペックな男性に交際を申し込まれるなんて、奇跡みたいだ。
思えば、ベンチで初めて会ってから今日まで、それほど長い時間は経っていない。
けれど、二人で過ごした時間はとても濃く、心に残る出来事ばかりだった。
駿介と交際していたころも会社は同じだったが、一緒にいた時間はほんの少しだった。
透也は隣人だからこそ自然に会う機会が多かったのかもしれない。
でも夏帆にとって、この数か月は特別で、宝物のような日々だった。
(最初はホームレスの変な人……その次はホスト……。ふふっ、とんだ勘違いばかり)
自分の思い込みを思い出して、夏帆はくすっと笑う。
けれど、そんな出会いだったからこそ、肩の力を抜いて彼と向き合えたのかもしれない。
もし最初から、テレビや雑誌にも出る有名なファンドのCEOだと知っていたら、きっと距離を置いてしまっただろう。
そう思うと、こうして隣人として親しくなったのは、自然の流れで、運命のようにも感じられた。
そのとき、透也がもぞもぞと動いた。
その様子は、以前二人でこのベッドで夜を明かした日のことを思い出させる。
あのときと違うのは、今二人は“隣人”ではなく“恋人”だということだった。
(たった数か月の間に、いろんな思い出があるな~)
楽しかった日々が胸の中に蘇る。
「おはよう」
目を覚ました透也が、眠たそうな表情で夏帆を見つめながら言った。
「おはようございます」
夏帆が答えると、透也が少し笑って言った。
「家ではため語って言ったでしょ~」
「あ、そうだ……」
昨夜、透也は“堅苦しい言葉遣いはやめよう”と言ったのだ。
丁寧な言葉遣いだと職場にいるみたいだからと、笑いながら言った。
だから、二人だけのときはざっくばらんな言葉遣いにすることに決めたのだ。
「はい、やりなおし~。もう一回やるよ。おはよう、夏帆!」
「おはよう、透也……」
夏帆が少し恥ずかしそうに名前を呼ぶと、透也は満足そうにうなずいた。
「よし、合格~!」
透也はそう言って、夏帆の瞼に軽くキスを落とす。
くすぐったくて、夏帆は思わず笑ってしまう。
その笑顔を、透也は愛おしそうに見つめていた。
「そんなに見ないで……恥ずかしいから」
「そのくらいいいでしょ~。だって、やっと大好きな女性と結ばれたんだからね」
「それはそうだけど……」
「俺、本気で人を好きになると“溺愛”するタイプだから、覚悟しておいてね~」
「そうなの?」
「うん。でも、今まで溺愛した女性なんてひとりもいないけどね~」
その言葉に、夏帆はくすくすと笑った。
そして、透也が本気で惚れたのが自分だけなのだと分かると、胸がくすぐったくなる。
照れ隠しに、夏帆は透也に言った。
「ね。手、見せて」
「ん?」
「あなたの手。大きなその手よ……」
透也が右手を差し出すと、夏帆は自分の手を重ねた。
彼の手は大きくて、指は長く、美しい形をしている。
「私ね、男の人の大きな手が好きなんだ……」
「どうして?」
「なんでかな? 小さい頃に手を繋いだ父の手を思い出すからかも」
「そっか。夏帆のお父さんは、いくつのときに亡くなられたの?」
「小学校三年のとき」
「じゃあ、まだ父親が恋しい頃だよな~」
「うん……」
駿介の指は太くて短く、安心感を覚えることはなかった。
でも透也の大きな手は、どこか父の手に似ていて、触れると心が落ち着いた。
「ねぇ……」
「ん?」
「透也って、どうしてそんなに優しいの?」
「え? そう? 俺って優しい?」
「うん。一緒にいると癒されるし、細かいことにもよく気がつくし……。いつもそんなだと、透也の休まるときがないんじゃないかなって思ったの」
「あはっ、そんなことないよ。こうして夏帆を抱きしめてるだけで、心からほっとする」
「そう? それならいいけど……」
夏帆は甘えるように透也の首元に顔を寄せる。
それに応えるように、透也は肩をぎゅっと抱き寄せ、夏帆に唇を重ねた。
しばらく熱いキスを交わしたあと、透也が夏帆の耳元で囁いた。
「もう一度愛してもいい?」
「ん……」
夏帆は照れたように小さくうなずくと、透也の腕の中へ飛び込んだ。
濃密な時間を過ごした二人は、午前十一時過ぎにようやくベッドから起き上がった。
「そろそろお腹空いたね」
「うん。何か作るよ」
「いいよ、外に食べに行こう。駅前のカフェなんてどう?」
「嬉しい! あそこ、まだ行ったことないの」
「じゃあ、決まり。シャワー浴びて三十分後に玄関前に集合!」
「了解!」
服を着た二人は、そのまま玄関へ向かう。
透也が玄関の扉を開けようとしたそのとき、隣の部屋のインターホンが鳴った。
「俺の部屋?」
「そうかも」
「誰だろう? 宅配とか来る予定はないけど……」
透也は首をかしげる。
「出てみたら?」
「いや、もし来客だったら、夏帆とのブランチが台無しになるから、帰るまでここで待機するよ」
しかしインターホンは鳴り続け、やがて止まった。
どうやら諦めて帰ることにしたようだ。
ちょうど夏帆の玄関前を通る気配がしたので、透也がドアスコープを覗くと、驚きの表情に変わる。
そして、小声で夏帆に告げた。
「結城さんだよ」
「ええっ? 結城さんがなぜ?」
「分からない。でも、帰るみたいだね」
ほっとしたように言い、エレベーターの音を確認してから、透也はドアを開け外を覗く。
誰もいないことを確認すると、ようやく外に出た。
「いったい何の用事だ? もしかして夏帆ちゃんに会いに来たとか?」
「まさか、そんなはずないわ」
「じゃあ、何だろう。まあ、いいや。じゃあ夏帆ちゃん、三十分後にここで」
「はい」
透也を見送った夏帆は、不審に思いながらも、シャワーを浴びるためにバスルームへ向かった。
コメント
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オートロックじゃなかったの?危険危険!透也さん、夏帆ちゃんを守ってね。
甘ーい2人の幸せな朝だったのにーー また出た!紗英:(´ºωº`): もうストーカー認定です🤣 今度はどんな策を練ってるのかな…笑
早くセキュリティがバッチリのマンションに引越しましょう! いったい何しに来たんだろ😱