コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「おーい、昨日の写真もう上がってるぞ!」
朝、教室に入ると男子がスマホを掲げて笑っていた。画面には、化粧をさせられスカート姿で接客する自分の姿。口元が引きつり、ぎこちなく笑っている。
「#男の娘 #文化祭 #看板娘」
タグと共に、知らない人間からのコメントが並んでいた。
「似合ってるw」
「これホントに男子? 女子よりかわいくね?」
教室の空気が笑い声で満たされる。
「お前昨日めっちゃ頑張ってたじゃん」
「将来こっちで食ってけるんじゃね?」
「次の行事でもやってもらおうぜ」
冗談めかした声に混ざって、明らかに本気で面白がる視線。遥は鞄を机に置き、下を向いた。
休み時間になっても話題は途切れない。
「ねえ遥、またやってよ。『いらっしゃいませ〜♡』って」
「動画撮りてー! 練習しようぜ」
肩をつつかれ、無理やり立たされる。
「やめろって……」
「ノリ悪ぃな。昨日あんなに楽しそうにやってたのに」
楽しそう? あれのどこが。
でも声に出せば「言い訳」だと笑われるだけ。
下校途中、通知音が止まらなかった。スマホを開くと、知らないアカウントからのフォローやコメントが続々と入っている。
「かわいい」
「文化祭行けばよかった」
「次はメイド服で頼む」
吐き気が込み上げ、電源を切った。
ふと顔を上げると、前を歩いていた別の学校の生徒がこちらを振り返り、ひそひそと何かを囁き合っている。
「……あれじゃね?」
「昨日のツイートのやつ?」
足がすくみ、歩幅が小さくなった。人目が恐ろしい。
帰宅すると、リビングの鏡に自分の顔が映った。
まだ落としきれていない化粧の跡。マスカラの黒が目の下に薄く残っている。
「……気持ちわりぃ」
無意識に口をついた言葉に、自分で胸を締め付けられた。
鏡を叩きたい衝動に駆られたが、拳を握りしめるだけで何もできない。
机に突っ伏し、天井を睨む。
——あれが俺の役目なのか?
——笑われ役。利用されるだけの存在。
「違う……違うはずだ」
そう言っても、文化祭のざわめき、フラッシュの光、嘲り笑う声が耳から離れなかった。
翌日も、その次の日も。
「なあ遥、次のイベントでも期待してるからな」
「もうお前、クラスのマスコットだな!」
誰も遥を「一人の生徒」としては見ない。
ただの「笑いの種」「便利な看板娘」として扱う。
笑顔を強要されるたびに、心の奥で声が崩れていく。
「やめたい」「消えたい」
でも口にはできない。
ただまた、ぎこちなく笑う。
そして、その笑顔が新しい笑いを呼ぶ。
それが、終わりなき地獄の輪だった。