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「よーし! 今日の掃除当番、いざ出陣!」
放課後の教室で、大地がほうきを振り回しながら叫んだ。
「戦国時代じゃねえんだよ。静かに掃除しろ」
隼人は黒板を拭きながら、ため息をつく。
「いやいや、掃除だって盛り上がらないと! ここは俺がクラスをピカピカに――うわっ!」
大地は張り切りすぎてほうきを振り上げた拍子に、プリントの山を床にぶちまけてしまった。
「おい、逆に散らかしてどうすんだよ」
「すまん! これも計画のうちだ!」
「計画にするな!」
慌てて拾い集める大地を横目に、隼人は黙々と黒板を磨く。その几帳面さに、クラスメイトから「さすが隼人!」という声が飛ぶ。
だが、大地は違った。
「おおー、黒板ピカピカ! 隼人、まさか掃除のプロだったのか!?」
「は?」
「じゃあ俺は床のスペシャリストになる!」
言うが早いか、大地はほうきで器用にリズムを刻みながら、モップをマイク代わりに歌いだした。
「おい、それはスペシャリストじゃなくて大道芸人だ!」
「違うぞ、清掃アーティストだ!」
「誰もそんなの認めねえ!」
教室中に笑い声が広がる。だが、その光景に隼人はなぜか少しムッとした。
――なんで俺が真面目にやってんのに、大地だけ楽しそうなんだよ。
「大地!」
「ん?」
「……ほら、そこ、拭き残し」
隼人はつい、少しきつめに声をかけてしまった。
「あ、ほんとだ! ありがとな!」
大地は全然気にせず、にこっと笑う。その無防備な笑顔に、隼人の胸の中のモヤモヤは一瞬で行き場をなくした。
「……なんで怒らねえんだよ」
「え? なんで怒る必要ある?」
「……バカ」
隼人は視線をそらした。
その後、大地は隼人の真似をして丁寧に机を拭こうとするが、逆に水をこぼして床を濡らしてしまう。
「わーー! 滑る!」
見事に尻もち。
慌てて隼人が手を差し伸べると、大地は照れもなくその手を掴んで立ち上がった。
「やっぱ隼人がいないと掃除になんねーな!」
「……はぁ。おまえがいないほうが早く終わる」
口ではそう言いつつ、隼人の耳までほんのり赤いのを見逃す者はいなかった。
結局、その日の掃除は予定より30分も長引いた。
「でも楽しかったな!」
帰り道、大地は満足げに言う。
「どこがだよ……」
隼人は頭をかきながらも、なぜか同じ気持ちになっている自分に気づいてしまうのだった。