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教室の空気は低く、重かった。昨日のことを知っている者たちの視線が、一つの点に集まると、そこが燃え盛るように熱を帯びる。俺は立たされ、周囲の輪がぎゅっと縮まった。
「さあ、正直に言ってみろよ。昨夜、どこで何してたんだ」
教師の声は穏やかに始まったが、その穏やかさは宣告に変わる。全員の期待が集まる。いまここで“何か”を吐き出させることが目的だ。
「聞こえないのか、お前」
男子が前に出る。顔の表情が冷たい。
「お前、何様のつもりだ? 俺らの前でそんな顔すんなよ」
女子が嗤う。誰も手を差し伸べない。むしろ、拍手の代わりに嘲りが積み重なる。
「見ろよ、この顔。まだ震えてるじゃねえか」
「吐き気がする。ほんと、ここにいるだけで不快」
「お前みたいな存在は要らない、消えればいい」
言葉が矢のように飛んでくる。どれもが存在を否定する。胸が締め付けられ、息が浅くなる。
「謝れば済むと思ってるのか?」
教師が近づき、にやりと鼻先で笑った。
「言葉で片付く問題じゃない。態度で示させる。全員の前でな」
机を叩く音。誰かが膝で肩を押しつける。身体の自由が奪われる感覚が恐怖を増幅させる。
「情けない顔するな、もっと見苦しくやれ」
「声出せよ。弱虫の声、聞かせてみろ」
「そうだ、泣け。俺らが楽しむために泣け」
罵倒は幾重にも折り重なり、言い換えやバリエーションで刃を深くしてくる。
――「雑魚」「虫けら」「ゴミ」「不要物」「化け物」「生きてる価値ない」――どの言葉も、存在の根元を抉るように配置される。
「お前の存在が他人の時間を汚すんだ。ここで理解しろ」
「見せしめだ。誰も守らない。ここで分からせる」
教師の声は冷静だ。だが冷静さこそが最も悪質だった。権威の補助が、苛めを“正当化”する。
誰かがスマホを構える。赤い録画ランプが小さく光り、笑い声がさらに大きくなる。映像はそのまま拡散されるかもしれない――その可能性が、胸に新たな鉛を落とす。
「言え、正直になれ。嘘で逃げるな」
「何をされたか、ここで認めろ」
言葉を強制される。出せば更に利用される。出さなければ、更に罵られる。どちらを選んでも、罰が用意されている。
俺は喉を開けて、細い声を搾り出す。
「……もう、やめてください」
その一言を聞くや否や、教室は歓声のような嘲笑に包まれる。誰かが身を乗り出して嗤う。
「やめて? 自分で蒔いた種だろ」
「だよな、逃げんなよ」
そして追い打ち。列をなして俺の周りを取り囲む足音。肩を押され、机で背中を叩かれ、吐き気を催すような罵詈雑言が連続する。教師は淡々とそれを見守り、たまに皮肉を落とす。全員が合図を合わせるように、執拗に、残酷に。
「今日の見せしめは成功だな。ネットにあげてやれ」
「うん、それで世界中のガラクタ扱いにしてやろう」
誰かの囁きに、また笑いが起きる。冷たい連帯感がそこにはある。俺はただ、床の木目を見つめ、息をするのが精一杯だった。声を出すともっと深い羞恥が返ってくる。黙ると、さらに抉られる。出口はない。
教室の明かりが、いつもより青白く感じられた。誰かが最後に言う。
「覚えとけ。ここは遊び場じゃねぇ。居場所を守りたければ、まずは従え」
その言葉が、心の中で鈍い釘のように打ち込まれる。俺は立ち尽くし、誰も知らない傷を抱えたまま、その場に置き去りにされた。