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草凪葉月🌙⭐️🐈⬛@活休中?
月咲やまな
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柊也の認識する所の“富士の麓”に広がる樹海を戦闘も無しに駆け抜け、瞬時に魔物を一掃したルナールは、その後も柊也を横抱きにしたまま王都の中心部を目指してひたすら森を走り続けた。短く見積もったとしても軽く百キロ以上はある道程だったが、整備された道を完全に無視して真っ直ぐに進んだおかげで、樹海を抜けてから一時間もかからないで中心街の側まで辿り着いたのだから驚きだ。
「……自動車より早いとか、ルナールの身体能力怖いわ。馬に嫌われてる理由、ソコじゃない?」
「そう言われましても……」
比較対象で出てきた『ジドウシャ』の意味が分からず、ルナールが微妙な顔をする。そんな彼の横で、柊也は「絶対にそうだ、うん。馬って頭いいし、何となく『コイツヤベェ』とか思ったんだよ」と勝手に一人で納得していた。
「それにしてもさ、周辺の村々も綺麗で素敵だったけど……王都はもっとすごいね」
初めてこの世界へ来た時は、森の側にある神殿の中で目を覚まし、出発してすぐにまた森の中に突入して行った為、街を見る事が出来なかった事を悔やむレベルで柊也が心を弾ませている。
初めて見るファンタジー感満載の国内最大の王都の街並みに柊也はうっとりと見惚れ、終始キョロキョロと周りを観察する。その姿は、完全におのぼりさんだ。
インバーション・カースの影響により人間化している者が多く歩いてはいたが、民衆達に悲観している感じは皆無なのもまた、彼を安心させ、より観光客根性を表に出させてしまうのだった。
柊也達の居る場所から少し離れた位置に見える、白鷺にも似た美しく巨大な洋風の城と、その周辺を囲う巨大な街並みに目をやりながら柊也が感嘆の息をついた。
背の高い建物は城以外にはほとんど無く、どれもこれも平屋か三階程度の高さの建物ばかりで、木造だったり煉瓦造りだったりと多種多様な素材で作られた建造物が立ち並んでいる。城とは違ってその辺に立ち並ぶ家々は、屋根の色が随分とカラフルなもんだからちょっと目に痛い。だが、街に住む人達の陽気さを物語っている気がして、見ているだけで柊也の心が弾んだ。
和風建築の建物がほとんど無いのだけが残念な点ではあったが、途中途中で見かけた小さな神殿、なのに何故か存在する鳥居にだけは、大きな違和感と……でも、親近感を感じる事が出来た。
公園や広い庭、街路樹などもとても多く、自然と上手く調和した街並みな点に柊也は感心するばかりだ。あちこちにある噴水や小川の効果なのか、季節的にはもうそろそろ暑苦しさに悲鳴をあげる時期だと思うのだが、その様な気配も無いおかげで、ルナールに横抱きのまま街の中を移動していても、『暑いから離れて!』という発想にすらならなかった。
「……お」
「お?」
「大きいね!」
「そう、ですね。えぇ、本当に」
やっと辿り着いた王城を眼前にして、柊也が子供っぽい感想を叫んだ。
ヨーロッパの各地に点在している古城を思い起こさせるデザインはとても美しく、木々や花々にも多く囲まれていて、こちらも街と同じく自然との調和感もバッチリだ。これほど美しい城を間近で見られた事に柊也は嬉しい気持ちになったが、美しかろうが相当年季の入っていそうなこの城に、現在進行形で人が暮らしているという事にも驚いてしまった。
正門を目指して王城の周囲を囲む小川の横を歩く。もちろん、柊也はお姫様抱っこのままだ。
「さっき……僕の事、子供っぽいって思ったでしょ!」
「いいえ。トウヤ様は可愛らしいなとは思いましたが」
「うわぁ……微妙に悔しいなぁ。でも、ホントに大きいなって思ったんだもん、仕方ないよね⁈」
「えぇ、そうですね」
少し前まで樹海で魔物に追いかけられていたとはとても思えない程、二人が楽しそうにやり取りをしている。そんな彼らの横を通り過ぎていく人達の眼差しもとても温かなもので、柊也が少し照れ臭い気持ちになった。
「此処もいい街だね。みんな笑顔って感じで、呪われていて大変だわって感じが全然無いし」
「えぇ、そうですね。今の統治者であるレーニア国王とラモーナ王妃のお人柄のおかげではないかと思いますよ」
「何かちょっと……き、緊張するな……今からその人達に会わないといけないんでしょ?僕達」
「はい。避けては通れませんね。今回の【孕み子】は彼らの第一子である『ユラン』ですから」
「王子様相手に呼び捨てはダメだよ、ルナール」
「……そ、そうですね。失礼しました」
何とも微妙な顔をして、ルナールが頷く。
「ユラン王子ってどんな人なんだろう。こ、怖い人じゃ無いといいけど……」
「怖くは無いですよ。全然微塵も。少し人付き合いが苦手なだけです」
「ルナールと同じタイプかぁ。なら何とかなるかな?」
アグリオスのアドバイスである『【孕み子】を満足させてみたらどうだ』という言葉を思い出し、柊也は少し背筋に冷たいものを感じたが、表には出さず、笑顔で誤魔化した。
「……そうですね、トウヤ様でしたら」
「……うん」
そんなやり取りをしながら二人はのんびりと正門を目指していたのだが、周辺を歩いていた警備の者達が二人の存在に気が付き、「貴方方はもしや、【純なる子】なのでは⁈」「そうだそうだ!早く中までお連れしろぉぉ」と一斉に騒ぎ出し、まともな会話も出来ぬまま、あれよあれよという間に王城の中へと運び込まれていったのだった——