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白山小梅
一時間後、優人は自宅マンションへ戻ってきた。
あの後、コーヒーを飲み終えた優人は七星の家を後にし、そのまま車を走らせて帰宅したのだ。
七星の家で過ごした時間は、まるで遠い昔へタイムスリップしたかのようだった。
幼いころに見た景色のような、懐かしい雰囲気。
胸の奥に眠っていた感覚がふと蘇り、今とは別世界に迷い込んでいたような気さえする。
(何だろう……この感覚は……)
その理由は分からない。
ただ、体の芯まで癒されたような、不思議な安堵感だけが残っていた。
今朝からやる気に満ちていた優人だったが、夜になっても興奮が冷めず、どうにも眠れそうにない。
そこで、昔、何度も読み返した医学書を手に取り、若い頃と同じように深夜までページをめくり続けた。
七星の家を訪れてからというもの、優人の体にはこれまで以上の活力が満ち溢れているのをはっきりと感じていた。
翌日。
ナースステーションにいた由希は、朝から露骨に機嫌が悪かった。
新人看護師には高圧的に、長い付き合いの同僚に対しても刺々しい態度を隠そうとしない。
「何かあったの?」
「今日一日あの調子だったら最悪~」
「勘弁してよ~」
そんなひそひそ声が周囲から聞こえてくる。
由希が怒っている理由――それは昨日、優人が七星と会っているところを目撃してしまったからだ。
チューリップの花束が誰の手に渡るのか気になっていた由希は、こっそり優人の後をつけていた。
優人がラーメン店の駐車場に入ると、由希も反対側の入口から入り、端のスペースに車を停めた。
そして見てしまった。
優人が車を降り、笑顔で道路脇に立ち、大きく手を振る姿を。
まさか、クールで物静かなイケメン名医が、あんな子供のような仕草をするとは思いもしなかった。
その瞬間、由希の中で優人のイメージが崩れ落ちた。
だが、本当の衝撃はその先だった。
優人が呼び止めた相手が七星だと知り、由希は愕然とする。
いつの間に二人はそんな関係になっていたのか。
胸の奥がざわつき、ショックすら覚えた。
(あの小娘……いつの間に……)
二人がラーメン店へ入っていくのを見届けると、由希は駐車場を後にした。
花束を渡す場面こそ見なかったが、七星に渡るのは明らかだった。
本当は最後まで見届けたかったが、その後由希は地元の実業家とのデートが控えており、泣く泣く引き返したのだった。
(覚えてなさい……地獄の底まで落としてやるから……)
そう呟きながら、由希は“キープ”している相手とのデートへ向かった。
その男とは病院で知り合った。
彼が入院中、由希が担当となり、退院のときに連絡先を聞かれたので、軽い気持ちで電話番号を渡した相手だった。
しかし、そのデートは期待外れもいいところだった。
外車に乗り、ブランド物で身を固めた羽振りのいい実業家――そんな印象とは裏腹に、連れて行かれたのはチェーンの居酒屋だった。
記念すべき初デートだというのに、気遣いもプレゼントもなく、食事のあとはそのままホテルへ向かうだけだった。
何のために、あの男からの誘いを今まで引き延ばしてきたのか分からない。
作戦を練り、散々勿体ぶった挙句、軽く扱われたことで、由希はひどく気分を害していた。
病院一の美人看護師と呼ばれる由希が、こんな扱いを受けたことは今まで一度もなかった。
(自分の車や身なりにはお金をかけてるくせに……ケチにもほどがある! ほんと最低!)
そう毒づきながら、由希はやはり自分にふさわしいのは医療業界の名医だけ――そう思うようになっていた。
だが、その道に“七星”という大きな邪魔が入り、胸の奥はさらにざわついていた。
(あの女が、彼の元妻に瓜二つっていうのが厄介なのよ……。なんとかして、あの二人を切り離さないと……)
そう強く決意し、由希は不機嫌なまま仕事を始めた。
その頃、医局では、また優人の話題で盛り上がっていた。
「で、チューリップの花束は、いったいどこへ消えたんだ?」
野中が茶化すと、斉藤がすかさず乗ってくる。
「今ごろ、どんな女性の部屋に飾られているんでしょうね~」
からかう二人を前に、優人はまったく動じる気配もなく、ご機嫌な様子でこう答えた。
「シックな古民家のリビングに飾られてますよ」
その言葉に、野中と斉藤が同時に目を見合わせる。
「古民家?」
「なんでまた、そんなところに?」
優人はどこか勝ち誇ったように微笑み、さらりと言った。
「チューリップは、たまたま古民家暮らしの人が好きな花だったんですよ」
「ってことは……若い女性じゃなくて、高齢のばあちゃんか」
「なんだ~、てっきり若い女性にあげるんだと思ってましたよ」
「騙されたな」
「やられましたね」
二人が肩を落とすのを見て、優人はにやりと笑った。
どうやら、うまく誤魔化すことができたようだ。
「そういうことです。期待させて悪かったですね~」
楽しそうに返事をする優人を見て、二人は今度は別の意味で目を合わせる。
そして、上機嫌でコーヒーを淹れる優人を横目に、ひそひそと囁き合った。
「昨日よりさらにご機嫌ですね」
「うん……そのチューリップばあさんと何かあったのか?」
「ええっ? 尾崎先輩って、そっちの趣味だったんですか?」
斉藤の素っ頓狂な声に、野中が慌てて突っ込む。
「そんなわけあるかっ!」
「で、ですよね~……あ~びっくりした~」
二人の会話をよそに、優人はコーヒーを片手に窓辺へ近づく。
そして、雲ひとつない真っ青な空を見上げながら、静かに微笑んだ。
コメント
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七星ちゃんの癒しパワーで、元気ややる気を取り戻しつつある優人先生…🍀✨️ しかしストーカー平子が怖すぎる😨😱 まぁ…、欲の皮が突っ張っていてこんな性格だから、キープ君にもセフレか、愛人の一人くらいにしか認識されないのよね〜😅💦 優人先生も、院長先生も…皆さんで七星ちゃんを守ってあげてくださいね!!🙏
七星ちゃんすごいわ❣️癒してやる気にさせるパワーの持ち主ですね(*'▽'*) それにしても嫌な由希 七星ちゃんを地獄に落とそうとしてますよ‼️野中院長 医局で楽しく優人先生を揶揄ってないで由希をなんとかして下さいね
女豹由希尾行してたのか…怖っ💦😱 キープ君にも雑な扱いされてお気の毒…( ꜆´꒫`꜀)病院一の美人看護師なのに笑 小娘めって…これから嫌がらせするつもりよね、そんな事しても優人先生は七星ちゃんだけよꉂ🤭︎💕