テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ドアが開く。
相談者は少し言いづらそうに言った。
「優しい人ほど、なんか距離感じる……」
蓮司は椅子を引く。
「冷たいわけじゃなく?」
「むしろ逆。ちゃんとしてる。気遣ってくれる」
「で、何が引っかかる」
相談者は少し考える。
「“いい人対応”されてる感じがする」
蓮司は座る。
「なるほどな」
少し間。
「雑に話してくる相手の方が楽?」
「……楽」
「気遣われると緊張する?」
「する。ちゃんと返さなきゃってなる」
蓮司は机に指を置く。
「お前、“優しさ”を“評価”として受け取ってる」
相談者は眉を寄せる。
「評価?」
「丁寧に扱われると、“ちゃんとした自分で返さなきゃ”になる」
相談者は黙る。
「だから距離感が発生する」
間。
「でも普通、優しい方が近づきやすくない?」
「人による」
少し沈黙。
「雑な相手って、最初から完成度求めてこない感じあるだろ」
相談者はすぐ頷く。
「ある」
「多少変でも成立する安心感がある」
「それだ……」
間。
「逆に優しい人は、空気壊しちゃダメ感ある」
「お前の中で、“丁寧な人=繊細に扱わなきゃいけない人”になってるな」
相談者は苦笑する。
「勝手にハードル上げてる」
蓮司は軽く頷く。
「あともう一個」
「何」
「優しい人って、最初は距離一定なんだよ」
相談者は顔を上げる。
「どういうこと」
「誰に対しても感じ良い。だから“自分だけ特別”感が出にくい」
間。
「それで遠く感じるのか」
「多分な」
相談者は黙る。
少し静かになる。
「でも、雑な相手の方行きすぎると疲れない?」
「疲れる」
「なのに安心感はある?」
「ある……」
「境界が見えやすいからだな」
相談者は考える。
「優しい人って、嫌だった時も嫌な顔しなさそうで怖い」
蓮司は少しだけ頷いた。
「それもある」
間。
「本音が見えにくいから、逆に気を使う」
相談者は小さく息を吐く。
「じゃあどうすればいい」
「“ちゃんと返さなきゃ”を減らす」
「難しいな」
「お前、優しさに対して毎回同じ熱量返そうとしてる」
相談者は黙る。
「でも会話って、毎回等価交換じゃない」
間。
「返せない日もあるし、薄い日もある」
「それで関係終わるわけじゃないか」
「終わらない」
少し沈黙。
「あと、優しい相手ほど、多少崩れても案外平気だったりする」
相談者は少し笑う。
「イメージ逆だった」
「お前が勝手に“ちゃんとした関係”にしてるだけ」
間。
「なんかさ」
「何」
「優しい人といる時、自分までちゃんとした人間じゃないとダメな感じしてた」
「面接モード入ってるな」
相談者は吹き出す。
「またそれ」
蓮司は少し笑う。
ドアの前で立ち止まる。
「返しきらなくてもいいか」
「その方が近づける」
ドアが閉まる。
優しさに緊張するのは、相手が遠いからじゃない。
“ちゃんとしなきゃ”を、自分で増やしてるからだ。
#読み切り