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「……は?」
声にならない声を押し出すと、蒼翔は笑って、足でドアを蹴って閉めた。
「ひさびさに来てやったのに、それはねぇだろ。俺、いろいろ溜まってんの」
リュックを放り投げるように床へ落とし、悠翔を片手で壁へ押しつけた。
音は立てていないのに、骨の奥から鳴るような衝撃が走る。
問いかけも、予告も、ない。そこにはただ「当たり前」があった。
「こっちは徹夜明けなんだよ。だから手間かけさせんなよ」
蒼翔の指が、悠翔の首元からシャツの内側に入っていく。
冷たく乾いた手のひらが、汗ばんだ肌を乱暴になぞる。
ボタンはひとつずつ引きちぎられ、弾ける音が部屋に小さく散った。
「んで、おまえ、あれ以来“誰にもされてねぇ”んだろ? なあ?」
言葉の意味を拒もうとした瞬間、ズボンのベルトに指がかかる。
ひねるようにして、外される。重みのある金属の音が、床で鈍く響く。
止めようとした腕は、軽くねじられただけで力が抜けた。
「カメラ回すの、忘れたな。……まあいい。どうせ、見られる側のおまえは、何も変わらねぇんだから」
照明が落とされ、代わりにスマホのライトだけが点いた。
直線的な白光が、むき出しの皮膚を照らし出す。
光は冷たいのに、皮膚の感覚だけが熱を持っていた。
蒼翔は、押し黙ったまま、手を止めない。
肌をこすり、抑えつけ、時に爪を立てながら、どこまでも感触だけを刻み込んでくる。
この空間の支配は、痛みより深く、沈黙より大きかった。