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「いてててっ……な、なんだよ!」
「なんだよは、こっちのセリフだ」
「はあ? 偉そうに……夏帆との付き合いは、俺の方が長いんだ」
「期間なんて関係ないだろ。お前はもうとっくに夏帆と別れてるんだから」
「いや、関係ある! 俺たちは、まだ完全に終わったわけじゃないから」
「……お前、何言ってんだ?」
透也はねじり上げていた駿介の腕を、振り払うように放した。駿介はその勢いでよろける。
だが透也は、怒りを隠すことなく鋭い視線で駿介を睨みつけていた。
(わっ……すごい迫力! 普段のゆるふわキャラとは別人みたい)
助けられた夏帆は、まるで子供番組のヒーローを見つめるような目で透也に見入っていた。
(こんな男らしい表情、初めて見た! ギャップ萌えだわ……)
緊迫した状況だというのに、夏帆はうっとりと透也を見つめてしまう。
それに気づいた駿介が、面白くなさそうに吐き捨てた。
「だから、俺は夏帆と二人で話がしたいんだ」
「どんな話だ?」
「お前に言うかよ」
「俺は今、夏帆の恋人だ。聞く権利はあるだろ? なあ、夏帆」
突然同意を求められた夏帆は、慌てて大きくうなずいた。
(そうよ……私たちは“付き合ってる設定”だったわ)
夏帆がうなずくと、駿介は舌打ちし、しぶしぶ口を開いた。
「……俺は、夏帆とやり直したいと思ってるって伝えに来たんだ」
「ええっ!?」
通りがかった女性が振り返るほど、夏帆は大きな声を上げて驚いた。
「なんだよ、そんなに驚くことか?」
「驚くに決まってるでしょ。駿介は私を振ったんだよ。私と付き合ってるのに、結城さんと浮気して私を欺いてたんだよ。忘れたの?」
「それは……一時の気の迷いで、魔が差したっていうか……」
「魔が差したとしてもね、私は浮気した元彼とよりを戻す気なんてないから」
「そんなこと言うなよ。俺は、やっぱり夏帆じゃないとダメなんだ」
「ダメって何よ。どういう意味?」
「夏帆は俺のことを思って、いつも気遣ってくれてただろ? 食事とか健康とか……そういう気遣いが、あいつにはないんだ」
「はあっ? それじゃ私はあなたのママか家政婦になれってこと? そんな都合のいい理由で戻るわけないでしょ」
「違うよ夏帆……とにかく、俺がバカだったのは認めるよ。夏帆と別れてから仕事も私生活も全然うまくいかなくて……それでようやく気付いたんだ。俺は夏帆じゃなきゃダメなんだって!」
あまりにも調子のいい言い分に、夏帆はこめかみを押さえる。駿介の話を聞いていると、頭痛がしてきた。
「あなたがどう思おうと、私は戻る気なんてさらさらないから。現に今は中条さんとお付き合いしてるし。私はあなたみたいに“はい、そうですか~”って簡単に気持ちを切り変えられないの。悪いけど帰って!」
「そんなこと言うなよ~。俺たち、結婚の話だってしてたじゃないか。もう一度ちゃんとするから、夏帆、戻ってきてくれよ~」
「嫌です。私はやっと自由になれたの。二度と戻るもんですか!」
夏帆はむっとして腕を組み、仁王立ちになった。
その様子を見て、透也が口を開く。
「彼女の意思は硬いぞ。だから、諦めたほうがいい」
「お前は黙ってろよ。なあ、夏帆……」
しつこく迫る駿介を見て、透也が制止した。
「伊坂、いい加減にしろ。あんまりしつこいと、ストーカー案件として警察に行くぞ」
「ス、ストーカー?」
「ああ。とっくに別れたのに、今さらのこのこ訪ねてきたりして……これは立派なストーカーだ。もし、このことが会社にバレたら、お前は職を失うかもしれない。それでもいいのか?」
「……」
そこで夏帆が口を開いた。
「もう二度とここに来ないって約束してくれたら、私は警察には行かないわ。でも、また私の前に姿を見せたら、そのときは警察に行くから。あなた、知ってるでしょ? 私が本気で怒るとどうなるか……」
「わ、分かってる……」
「だったら帰って! もう二度と私の前に現れないで!」
透也も静かに言った。
「伊坂、帰れ。もうこれ以上、彼女を苦しめるな」
「くっ……」
駿介は悔しそうに奥歯を噛みしめ、吐き捨てるように言った。
「調子に乗ってるのも今のうちだけだぞ! 覚えてろ!」
そう言い残し、駿介は停めてあった車へ乗り込むと、大きくエンジンをふかし走り去っていった。
駿介の車が見えなくなると、透也がそっと夏帆に声をかけた。
「災難だったね」
「ええ……。まさかあんなことを言い出すなんて思ってもいなかったので、びっくりしました」
「そうだよね……。追い返しちゃったけど、大丈夫?」
「もちろん! 彼とやり直すつもりなんて、一ミリもありませんから」
「そっか……それなら安心した」
夏帆はあらためて透也に向き直り、深く頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとうございました」
「偶然だけど、早めに帰ってきてよかったよ」
「今日はもう、お仕事終わりなんですか?」
「うん。それにしても、あいつの執着はすごいね……」
「はい……」
「まあ、昔のライバルが元カノと付き合ってるって知ったら、急に惜しくなる気持ちもあるんだろうけどね」
「たぶんそうです。あの人、プライド高いので」
「ははっ。確かにね」
透也はくすっと笑った。
その柔らかい笑顔は、いつものゆるふわな彼そのもので、夏帆はようやく肩の力が抜けた。
「あ、そうだ、夏帆ちゃん。あらためて、再就職試験合格おめでとう~」
「ありがとうございます。でも本当に驚きましたよ~、面接会場に中条さんがいるんだもん」
「あはは、黙っててごめんね。でも、君の驚いた顔が見たくてつい……」
「あっ、ずるい! でも、合格したので許します」
「助かった……命拾いしたな。伊坂によると、夏帆ちゃんは本気で怒ると怖いらしいからね」
「ふふ。私、怒ると本当に怖いですよ~」
「じゃあセーフだったな。でもさ、夏帆ちゃんだって、俺のことホストだと思ってたんでしょ?」
そう言われた瞬間、夏帆は慌ててぺこぺこと頭を下げた。
「本当にごめんなさい!」
「あはは、冗談だよ。だから、ときおり警戒してるふうだったんだ」
「え? そうでした?」
「うん。最初のころね」
「すみません……。でも、ホストじゃなくて安心しました」
「あはは! でも、ホストの方が楽しそうだよな~」
透也は冗談めかして言いながら、ゆっくりと歩き出した。
そのとき、夏帆が抱えていたケーキの箱と花束に気づく。
「合格祝い?」
「あ、はい……。ブーケの方はたまたま通りかかって値引きしてて、つい買っちゃいました」
「へえ……それ、見たことあるけど、なんていう花?」
「ガーベラです。私が一番好きな花なんです」
「ガーベラかあ。素敵な花だね」
そこで夏帆は、ふと思いついたように口を開いた。
「あの、よかったらケーキ二つあるので、一緒にいかがですか?」
「え? いいの?」
「はい。少し遅めのティータイムですが……」
「嬉しいな。じゃあ、せっかくだしごちそうになろうかな」
「ぜひぜひ」
夏帆は、このお隣さんが上司になるということをすっかり忘れ、いつもの調子で気さくに誘っていた。
コメント
52件
透也さんにギャップ萌え✨ ますます透也さんポイントアップだね⤴️🤗 駿介また絡んできそう…💦 でも透也さんいるから大丈夫かな(˶’ᵕ’˶ )︎✨️
今年のカゼはしつこいねー。 今作のクズはしつこいねー。 多分同じノリだな。 新作でクズ男が出る度に言っちゃうセリフ…。 そんなクズは忘れて、二人の時間をお楽しみ下さい♡ 何かあるのかな〜|ωΟ。)グフフ
かっこいい!透也さん♡ 夏帆ちゃんと自然な2人の感じがいい♡ ティータイム🥰話が盛り上がるのだろうなぁ🥰🥰 それにしても、元彼よ…ストーカー予備軍同士一緒にいれば良いのに😂無駄な空回り、しつこい人々は嫌われます😂気がつかないか!家政婦を雇って〜🤣🤣
#狂愛
柏木さくら
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#ハッピーエンド
瑠璃マリコ
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#ロマンスファンタジー
Jasmine
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桃下結衣
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