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保谷東
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ドアが開く。
相談者は席に座ると、少し考えてから口を開いた。
「自分って、面倒なんだと思う」
蓮司は向かいに座る。
「急だな」
「人といると疲れるんだ」
「どんなふうに」
「気を遣うし、話す内容考えるし、変なこと言ってないか気になる」
「うん」
「帰ったら、一人になれてほっとする」
蓮司は頷く。
「普通だな」
「でも」
相談者は言葉を探す。
「一人の時間が長くなると、今度は苦しくなる」
少し間が空く。
「誰とも話してないなとか」
「うん」
「自分って必要とされてないのかなとか」
「うん」
「考え始める」
静かな時間が流れる。
蓮司が口を開く。
「それ、一人が好きなんじゃなくて、一人で回復するタイプなんじゃないか」
相談者は首を傾げる。
「違うのか」
「好きと必要は別だ」
「どういうこと」
「人といると疲れる」
「うん」
「だから休む」
「うん」
「でも、人との関わりがいらないわけじゃない」
相談者は少し考えた。
「確かに」
「充電みたいなものか」
「そうかもしれない」
蓮司は少し笑う。
「ずっと使えば電池は減る」
「うん」
「でも、ずっと使わなければ、それはそれで動かない」
相談者は少し黙った。
「何か、ちょうどいい距離が分からない」
「分かるやつの方が少ない」
「みんな適当なのか」
「試してるだけだろ」
少し間が空く。
相談者は机を見つめる。
「人といると、『ちゃんとしなきゃ』って思う」
「何を」
「感じよくするとか、話を合わせるとか」
「一人の時は?」
「何もしなくていい」
「だから楽か」
「楽」
蓮司は少し考えた。
「でも、一人って、自分の考えしかない」
相談者は顔を上げる。
「うん」
「人といると疲れるけど、自分の外のものが入ってくる」
「話とか?」
「考え方とか、笑うこととか」
相談者は黙る。
「だから、人は疲れるのに、人を求める」
静かな時間が流れる。
相談者はぽつりと言った。
「どっちかに決めなきゃって思ってた」
「何を」
「人が好きか、一人が好きか」
「両方でいいだろ」
相談者は少し笑った。
「ずるくない?」
「現実的だ」
少し沈黙が流れる。
「一人になりたい日もある」
「うん」
「誰かと話したい日もある」
「うん」
「それが変わることもある」
「うん」
蓮司は頷いた。
「毎日同じじゃなくていい」
相談者はゆっくり息を吐く。
「何か、どっちつかずな自分が嫌だった」
「どっちつかずじゃない」
「違う?」
「疲れることと、必要なことは同じじゃない」
相談者は少し黙ったあと、小さく笑った。
「それ、覚えとく」
立ち上がる。
ドアの前で振り返る。
「一人でいたい日があっても、人が嫌いなわけじゃないんだな」
「逆もな」
「逆?」
「誰かといたい日があっても、弱いわけじゃない」
相談者は少し驚いた顔をした。
それから、小さく頷く。
「今日は、誰かに連絡してみる」
「疲れたら休め」
「そのくらいがちょうどいいか」
「多分な」
相談者は部屋を出ていった。
ドアが閉まる。
人といると疲れる。
でも、一人が続くと寂しくなる。
その二つが同時にあることは、矛盾ではないのかもしれない。
人は、誰かと関わることで疲れ、誰かと関わることで少し楽になることもある。
だから、その日の自分に必要な距離を探しながら過ごしていけばいいのかもしれない。
コメント
1件
読み終えたよ……第37話。 「人といると疲れるのに、一人でも苦しくなる」って、すごくわかる。自分もまさにそれで、共感しすぎて何回も読んじゃった。 蓮司の「好きと必要は別」とか、「毎日同じじゃなくていい」「疲れることと必要なことは同じじゃない」っていう言葉、すごく優しくて、心にすっと入ってきた。相談者が最後に「誰かに連絡してみる」って言えたの、ほんとに小さな一歩だけど、すごく大事な一歩だと思う。無理しないで、自分のペースで距離を探せばいいんだって思えた。 ruruhaさんのこういう“人を整理するような対話”、本当に好き。いつもありがとう🧡