テラーノベル
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朝日が校庭の桜を淡く照らす。春の光は温かく、しかしどこか切なさを孕んでいた。 陸と湊は、卒業式から一夜明けた教室にいた。今日は、旅立ちの日。二人の胸には、未来への期待と不安が入り混じる。
「……湊、今日、行くんだな」
陸は窓の外の桜を見上げ、声を震わせる。
「うん……俺は東京だ」
湊の声は低く落ち着いているが、目には微かに緊張が宿る。
陸は小さく息を吐き、視線を逸らす。
「俺は、地元に残る……でも、湊と離れるのは……」
言葉が途切れる。胸の奥の不安が膨らむ。
湊は陸の手をそっと握った。
「離れても、俺たちは一緒だ。距離が変わるだけだ」
視線は真っ直ぐで、言葉の重みが胸に響く。
陸は握られた手を見つめ、ゆっくりうなずく。
「……うん、わかってる……でも、不安だ」
素直に吐き出すことで、少し心が軽くなる。
「大丈夫だ。陸は陸らしく、俺は俺らしく。それでも支え合える」
湊の言葉には迷いがなく、温かさだけが残る。
教室の外では、友人たちの声や笑い声が響く。
でも、二人にはそれが遠く、世界は二人だけの静かな空間に変わる。
陸は息を整え、目を湊に向ける。
「……じゃあ、約束だな。お互い、頑張ろう。そして、支え合うってこと」
声に迷いはなく、決意が宿っている。
湊も微笑み、頷く。
「約束だ。離れても、俺たちは同じ空を見ている」
手を強く握り返す。互いの体温が、心の距離を埋める。
朝の光が二人を包み込み、桜の花びらがひらひらと舞う。
「……でも、やっぱり寂しいな」
陸の小さな呟きに、湊は短く笑う。
「俺もだ。でも、それを楽しみに変えよう」
言葉は軽やかだが、胸の奥には強い覚悟がある。
校舎を出る二人の影は、長く地面に伸びる。
春の朝の光の中で、離れる距離と、変わらぬ絆が同時に存在する。
互いに支え合う約束は、言葉以上の強さを持ち、二人の未来を照らしていた。
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