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街角のカフェの前。春の柔らかな日差しが、通りを淡く照らしていた。
湊は東京での生活に慣れ、大学生活やアルバイトで忙しい日々を送っていた。
時計の針を見つめながら、彼は無意識に手元のスマートフォンを握る。
「……そろそろ、着く頃か」
短く息をつき、湊は建物の扉を押した。
店内は柔らかい光とコーヒーの香りに包まれ、数席が静かに埋まっている。
その一角に、見覚えのある姿があった。
陸――地元に残り、仕事を続けながら、大学の夜間講座にも通っている彼。髪の長さや服装は少し大人びているが、立ち姿や目の温かさは変わらない。
湊は一歩、前に出る。胸の奥がざわつく。
「……陸?」
声は少し震えるが、確かに届く。
陸は振り返り、少し驚いた表情を見せた後、すぐに微笑む。
「湊……久しぶり」
目が合った瞬間、数年前の放課後や卒業式の日の記憶が、一気に鮮明に蘇る。
二人は自然に距離を詰め、席に向かう。
「変わってないな」
湊が軽く笑うと、陸も肩をすくめて笑い返す。
「湊こそ、変わってないけど……大人になった」
会話の中で互いの近況を交換する。進路の違い、離れていた時間のこと、それぞれの悩みや努力のこと。
でも、言葉の端々にあの頃の絆が滲む。
「離れても、こうして会えるんだな」
陸の言葉に、湊は強くうなずく。
「うん。離れていても、心はつながってる」
手を差し出す。陸は少し戸惑いながらも、自然にその手を握る。
店内の静かな空気の中で、二人の距離はゆっくりと縮まる。
言葉にしなくても、互いの存在が支えであり、安心感であることがわかる。
「これからも、続いていくんだな」
湊のつぶやきに、陸は微笑んで応える。
「うん……ずっと」
桜の季節は過ぎても、春の柔らかな光は変わらず、二人を包む。
未来がどんな形であれ、この絆は途切れない――
そう確信するように、二人は静かに笑い、並んで外の世界を見つめた。
再会の余韻に浸りながら、彼らの物語は新しい春の中で、ゆっくりと続いていくのだった。