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チャイムが鳴った瞬間、空気が張りつめた。席を立とうとした俺の肩を、岸田が無言で掴む。
骨が軋むほどの力。
「どこ行くつもりだよ、クズ」
耳元で低く吐き捨てる声に、背中が固まった。
机を押しやる音、椅子を蹴る音。
教室が一瞬で、檻みたいに閉じた。
出入口は、見物に集まった連中が塞いでいる。
岸田が俺の胸を指で突きながら、笑った。
「お前、存在してる意味あるのか?」
笑いじゃない。
純粋な怒りが声の奥に潜んでる。
遊び半分じゃない。
俺の呼吸が、たちまち浅くなる。
「返事しろ」
胸ぐらを掴まれ、壁に叩きつけられた。
石膏ボードが鈍い音を立てる。
衝撃が背中を突き抜け、息が抜けた。
「……ご、ごめん」
かすれた声が、勝手に漏れた。
「謝るなって言っただろ」
拳が腹にめり込む。
膝が崩れる。
教室の床が近づいた。
周りが笑った。
それは面白がっている笑いで、
でも、岸田の目だけは笑ってない。
「俺はな、テメェみたいなのが息してるだけで腹が立つ」
吐息に混じる憎悪が、皮膚を焼く。
「消えろ。ここからも、この世界からも」
誰かがスマホを構える。
シャッター音が連続する。
写真でも証拠でもない。
ただ、俺を物として切り取るための音。
殴られるたびに、俺の中の空白が広がる。
痛みよりも、自分が“もの”として見られてる感覚のほうが
ずっと深く突き刺さる。
「なあ、どうしてまだ立ってる?」
岸田の声が、耳の奥で反響する。
――俺が悪いんだ。
――俺が、ここにいるから。
喉の奥で言葉が千切れる。
自分の心臓が、まるで他人のものみたいに鳴る。
「ほら、さっさと答えろよ」
最後の一撃が、顔を横に弾いた。
視界が白く弾け、世界が一瞬で遠のいた。
床の冷たさだけが、俺の存在を確かめていた。