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無名の灯 番外編

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無名の灯 番外編

28 - 第28話 かえりみち

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2025年07月20日

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夜店の明かりが背後ににじんでいく。耳元で聞こえるのは遠くの太鼓と、日下部の不器用な呼吸だけだった。


「なあ……」


ぽつりと落とされたその声に、遥は振り向きかけて、それを途中でやめた。

光の届かない路地、彼の視線が、肩に落ちた浴衣の襟を見ているのを、知っていた。


「……変なこと、言うかもだけどさ」


日下部の手が、遥の指先にそっと触れた。

握るでもなく、繋ぐでもない。その距離は曖昧で、ぎこちなくて、けれど痛いほど真っ直ぐだった。


「……オレ、たぶん、もう、好きとか……そういうの、わかんなくなってたんだけど……」


遥は黙っていた。

それを止めも、促しもしなかった。ただ、指先の熱だけを確かめていた。

──その熱が、自分の価値とは関係なく与えられていることが、怖くて仕方なかった。


「おまえが誰かと……そういうことするの、想像すると、変になりそうで……」


日下部の声が低くかすれる。

遥は少しだけ息を飲んだ。性的な意味に慣れている自分なら、ここで何か冗談を言うか、肩を預けるかしたはずだった。

でも今、何もできなかった。


「……したい、とか、そういうのじゃなくてさ……いや、違う、そういうのもあるけど……」


「……わかってる」


遥の声は、誰にも届かないような小ささだった。

嘘じゃない。でも、自分には似合わない言葉だった。


「でも……オレ、汚いよ」


その一言に、日下部の手が初めてしっかりと遥の指を掴んだ。


「バカ。そんなふうに言うなよ」


熱かった。触れ方が、優しすぎて。


──だから余計に、怖くて、泣きそうになった。



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