テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
管野アリオ
416
#執着
猫とろ
146
瑠璃マリコ
17,615
#狂愛
柏木さくら
949
ホテルを出た沙夜は、エントランスに待機していたタクシーに乗り込んだ。
行き先には、無意識のうちに“現実世界”での住所を告げていた。
司と結婚したあと、二人で暮らしていたタワーマンションだ。
マンションの手前でタクシーを降りた沙夜は、エントランスへ向かって歩き出す。
しかし、マンションはまだ建築途中で、下層階はシルバーの塀に覆われていた。
完成まではあと数か月といったところだろう。
司はこのマンションを、沙夜のために購入していた。
(私を迎えるために、あんなに準備してくれていたのに……。その気持ちに感謝すらせず、文句ばかり募らせていたなんて……最低の妻ね)
過去を振り返れば振り返るほど、自己嫌悪が胸を締めつける。
そして、自分の心がいつの間にか司のことでいっぱいになっていることに気づいた。
(どうして……? どうしてこんなにも司さんのことばかり考えてるの?)
その事実に気づいた瞬間、沙夜は愕然とした。
そして、ミッションスクールに通っていた頃、教会の神父が語ってくれた言葉を思い出す。
“愛とは損得で考えるものではありません。一方的に欲しがるものでもありません。愛は与えるもの。見返りがなくても無償の愛を与えられる――それこそ真実の愛なのです”
その言葉を思い出した途端、沙夜の瞳から涙があふれた。
現実世界に残してきた愛しい我が子の姿が脳裏に浮かび、さらに涙がこぼれる。
無償の愛を注ぐはずだった我が子――そして、その子を授けてくれた司。
司は、大切な息子の父親でもあるのだ。
(ああ……どうして、どうしてこんなことになってしまったの。自分の愚かさが招いた結果だとしても、あまりにもむごすぎる。これから私は、どうやって生きていけばいいの……?)
マンション前の歩道で、沙夜は泣き崩れた。
行き交う人々が、不思議そうに彼女を見つめていく。
しばらくして、目を真っ赤に泣きはらした沙夜は、涙を拭いながらとぼとぼと駅へ向かった。
この世界にいる以上、生きるしかない――そう思い、とりあえず実家へ帰ることにする。
しかし、まだ夕暮れどきだ。
見合いの日、沙夜は夜まで司と過ごし、家に帰ったはず。
あまり早く帰ると未来が塗り替えられてしまうような気がして、少し時間を潰すことにした。
とりあえず、ターミナル駅まで移動した沙夜は、駅前のカフェに入った。
コーヒーを注文し、窓際のカウンター席に腰を下ろす。
ようやく少しだけ、胸のざわつきが落ち着いた気がした。
休日を楽しむ大勢の人々が、歩道を行き交っている。
その中には、小さな赤ちゃんを連れた夫婦の姿も何組もあった。
(もしあのまま夫婦を続けられていたら……司さんと私も、赤ちゃんを連れてあんなふうに休日を楽しむ日がきてたのかな)
そう思った瞬間、この世界ではその願いが決して叶わないのだと悟り、再び目が潤む。
しかし、溢れかけた涙は急に引いた。
窓の外に、見覚えのある人物を見つけたからだ。
(梨花ちゃん?)
休日に偶然梨花の姿を見かけたことに、沙夜は驚いた。
だが、その驚きはすぐに衝撃へと変わる。
梨花の隣には――三国怜央がいた。
梨花は怜央の腕にしなだれかかるようにして歩いている。
(どういうこと?)
無意識に二人を追いかけようと、沙夜は立ち上がる。
が、二人がカフェに入ってきたので、慌てて顔を背け、座り直した。
コーヒーを注文した二人は、ちょうど空いていた沙夜の真後ろのテーブルに向かい合って座った。
距離は近いが、間には背の高い観葉植物が置かれており、沙夜の存在にはまったく気づいていないようだった。
それでも、沙夜の心臓は激しく脈打っていた。
沙夜は身じろぎもせず、二人の会話に耳を傾けた。
「それにしても、いったい誰なんだろう? 沙夜先輩のお見合いの相手って」
怜央が興味深そうに尋ねる。
「結局教えてもらえなかったのか?」
「うん。てっきり西園寺コンチェルンの御曹司かなって思ったんだけど、違うのかなあ?」
「まあ、頭取の令嬢となれば、あちこちから引く手あまただろうからね」
「やっぱりそうよね。でも、教えてくれないなんて、ケチなんだから」
「まさか、お前の企みがバレたんじゃないだろうな」
「バレるわけないわよ。普段から従順な後輩を演じきってるんだもの」
その言葉に、沙夜はショックを受けた。
「悪い女だね~、頭取令嬢をだますなんて。でも、なんで彼女にそんなに執着するんだ?」
「執着? はあっ? これは執着なんかじゃなくて成敗よ!」
梨花は吐き捨てるように言った。
「だって、たまたま運よく親ガチャに成功した女が、のうのうとコネで大手銀行の秘書室に入って、みんなにちやほやされてるのよ。おまけに、腰掛けで三年勤めたら御曹司とのバラ色の結婚生活が待ってるなんて……やってられないわ! 地方出身で何のコネもない私が、血のにじむような思いでやっと入った会社に、あんなのがいたら頭にくるに決まってるじゃない! だから、きっちり成敗してあげないと」
「怖い怖い……女の恨みは怖いねえ~。でも、成敗って……お前、もしや勝手になんかやらかしてないだろうな?」
「ふふっ……まあね」
梨花はにやりと笑った。
「何をやったんだよ」
「知りたい?」
「当たり前だろ。お前の行動次第じゃ、俺の計画にも支障が出るんだからな」
「実はこの前、西園寺司がうちの銀行に来たときに、彼に言ってやったのよ。“あなたが財前先輩の名前を尋ねたと噂で聞いたので一つ忠告させていただきますが、財前先輩にはもうすでに好きな人がいますよ”ってね」
「マジかっ! まさか、俺の名前なんて上げてないだろうな?」
「名前は言わなかったわ。でも、私が伝えた瞬間、あの男、どんな顔をしたと思う?」
「どんな顔してた?」
「衝撃を受けていたわ。もちろん、すぐにポーカーフェースに戻ったけどね」
怜央は笑いながら言った。
「見事、御曹司の恋心にダメージを与えたってわけか。お~こわ、女の執念はマジ怖いね~」
「こんなんじゃ足りないわよ。あの女のせいで、私はずっと屈辱的な日々を過ごしてきたんだから」
梨花は怒りを隠そうともせず、吐き捨てるように言った。
二人の会話をすべて聞いた沙夜の手は、小刻みに震えていた。
(……梨花ちゃんは私のことをそんなふうに思ってたの? 司さんは、私に好きな人がいると勘違いしたまま、私と結婚したってこと?)
あまりの衝撃に、沙夜は体が固まり、呼吸すら浅くなる。
それでも二人は沙夜の存在に気づくことなく、会話を続けた。
「ところで、三国さんのほうこそ、ちゃんと沙夜先輩に交際の申し込みしてくれたんですよね?」
「ああ、したよ。でも、返事はまだだ」
「そんなのんきにしてていいの? 沙夜先輩、御曹司と結婚しちゃいますよ?」
その問いに、怜央は自信たっぷりに答えた。
「いいんだよ。一度結婚してくれた方がかえって都合がいい。御曹司と結婚したあと離婚すれば、相手の財産も手に入るしね。それに、頭取の令嬢だぞ? 何の後ろ盾もない俺なんかには手の届かない令嬢だぞ? だから向こうがバツイチになってくれた方が、むしろ釣り合いが取れるってもんだろ」
「なるほど~」
「そうなれば、“結婚に失敗した令嬢を引き取ってくれたありがたい社員”――必然的に俺の立ち位置はそうなる。となれば、出世もトントン拍子だ。だから、俺は彼女がバツイチになってくれた方が大歓迎なんだよ」
「したたかねえ~。さすが営業部トップ行員だけあるわ」
「お、珍しく褒められたな。じゃあ、ご褒美にこのあとホテルでどう?」
「うふふ♡ 今日はたっぷり奉仕してあげる♡」
梨花が耳元で甘く囁くと、怜央はコーヒーを飲み干し、すぐに立ち上がった。
「じゃあ行くぞ」
「もうっ♡ せっかちなんだから♡」
梨花は嬉しそうに笑い、席を立って怜央の腕に絡みついた。
そして二人はそのまま出口へ向かった。
沙夜はまだショックから抜け出せなかったが、二人が店を出たのを見て慌てて後を追った。
少し距離を置きながら、二人の背中を追いかける。
二人は人通りの少ない通りへ進み、やがてラブホテル街へ入っていった。
そして、派手なネオンの灯る一軒のホテルへと姿を消した。
残された沙夜は、呆然とホテルの入口を見つめ続けた。
コメント
26件
せっかく沙夜ちゃんが司さんへの 愛ある気持ちに気付いたのに 神父さんの言葉に私も感動したのに😭 梨花と三国はグルだった😡💢 梨花の沙夜ちゃんへの嫉妬 三国の財産目当ての考え 最低 最悪です 後輩思いの優しさで接していた 沙夜ちゃんの気持ちが…悲しいです😭 司さん梨花の言った言葉を信じないで欲しいです 沙夜ちゃんの味方はいっぱいいますよ🤗 司さんとの未来…諦めないで…😉💞

沙夜ちゃん! こっちが成敗じゃ〜🤬 早く元の世界の司さんとベイビーちゃんの元へ向かってください🧐🧐🧐🧐🧐
親ガチャとか考えがもう醜すぎて💢勝手に沙夜ちゃんと司さんを妬んでガセ情報で騙すなんてクズすぎる二人👫💢o(`ω´ )o💢まさかグルだとは思いもしなかった😡😡 ショックすぎる現実を目の当たりにしたけど、沙夜ちゃんは自分の気持ちが司さんを失いたくないになってるよね💖 なんとか状況を好転させたーい❣️