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ゆぴ
54
スミレ
131

2,307
夜。
呼ばれたのは十一時を過ぎてからだった。
遥は眠っていなかった。
眠れるはずもない。
「来い」
短い声。
それだけで胃が重くなる。
リビングへ降りる。
晃司。
沙耶香。
怜央菜。
颯馬。
全員がいた。
その光景だけで十分だった。
誰も笑っていない。
誰も怒鳴ってもいない。
ただ遥を見ている。
それが一番苦しい。
「座れ」
遥は従った。
逃げるという選択肢は最初からない。
晃司が口を開く。
「最近、浮ついている」
遥は黙る。
「返事」
「……違う」
「違うと思ってるのか」
静かな声。
否定も肯定も許されない。
遥は視線を落とした。
沙耶香が笑う。
「ほら。そういう顔」
「何も言ってないのに分かりやすい」
怜央菜も続く。
「前はもっと上手だったのにね」
四方から言葉が落ちてくる。
逃げ場がない。
反論すれば長引く。
黙れば認めたことになる。
何を選んでも終わらない。
颯馬はソファの肘掛けに腰掛けながら見ている。
面白いものを見るみたいに。
「勘違いしてるなら直しとけよ」
ぽつりと言う。
「お前が何考えようが勝手だけどさ」
笑う。
「顔に出すな」
遥の指先が震えた。
自分では隠しているつもりだった。
ずっと。
ずっと。
なのに。
全員に見抜かれている。
「お前は昔からそうだ」
晃司が言う。
「余計なものを持つ。
余計な期待をする。
余計なことを考える」
一つずつ。
釘を打ち込むみたいに。
言葉が落ちる。
遥は俯いた。
反論したかった。
違うと言いたかった。
けれど。
胸の奥では別の声がしていた。
――本当に隠せていたか。
――本当に平気だったか。
――日下部のことを考えていなかったか。
答えられない。
その沈黙が。
何より苦しかった。
夜はまだ長かった。
そして遥は、この時間が終わったとしても、自分の中に残るものまでは消えないことを知っていた。
コメント
1件
あおいです🌷 第9話、読み終わりました。 リビングに全員が揃っている、あの「静かな空気」がもう怖くて……。誰も怒鳴らないのに、逃げ場がなくなる感じ、すごく生々しかったです。晃司の「余計なものを持つ」という言葉が、釘を打つみたいに一つずつ落ちてくるのが胸に刺さりました。 特に、遥が自分では隠せてると思っていたのに、全員に見抜かれている――その無意識の震えが切なくて。ラストの「夜はまだ長かった」に、これからも続く静かな戦いを思いました。日下部さんのことを考えてるって、バレてるんでしょうか……。 次が気になります。更新、楽しみにしていますね🌷