テラーノベル
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動画は、画面が揺れている。
ピントも合っていない。
撮った側が、面白半分だったのが分かる雑さだ。
映っているのは、床に座り込んだ影。
顔は、ほとんど映らない。
膝と、伏せた頭と、震える肩。
音声が、先に来る。
『……ごめん……ごめんなさい……』
声が、掠れている。
泣いている、というより、
泣くことに慣れすぎた声。
『やめて……ほんとに……』
短い息。
喉が引きつる音。
『……もう、しないから……』
誰に向けた言葉なのかは、分からない。
でも、“許しを乞う形”だけが、はっきりしている。
『……ごめん……俺が悪かった……』
そこで、一度音が切れる。
次のカット。
今度は、もっと近い。
床に伏せた状態。
髪を掴まれて、顔が無理やり上げられる瞬間だけが映る。
顔は、途中でフレームアウトする。
『……やだ……』
小さい声。
拒否というより、条件反射。
『ごめん……ごめん……』
同じ言葉を、
同じ抑揚で、
何度も繰り返す。
編集されている。
「ごめん」
「ごめんなさい」
「俺が悪い」
その部分だけが、切り取られて、
間を詰められている。
まるで、
謝罪しかできない人間みたいに。
別の音声。
映像はなく、真っ黒。
『……殴らないで……』
息を吸う音が、異様に大きい。
『……ごめん……ほんとに……』
途中で、言葉が崩れる。
嗚咽。
鼻をすする音。
唇が震える音。
『……やめて……』
その直後、
何かがぶつかる鈍い音。
それで、終わり。
再生時間は、短い。
でも、途中で止める人はいない。
「これ、音だけの方がキツいな」
「謝り方、癖になってるじゃん」
「慣れてる感じがさ」
笑い声が、軽い。
誰も、
「やめろ」とは言わない。
遥にとって一番きついのは、
内容そのものより、編集の仕方だった。
(……生きるための言葉、だったのに)
あれは、
殴られないため。
終わらせるため。
その場を抜けるため。
(……それしか、なかった)
でも今は、
“面白い音”
“使える素材”
そういう扱いだ。
音声が止まる。
画面が消える。
でも、
耳の奥に残る。
『ごめん……』
『俺が悪い……』
何度も、何度も。
(……まだ、終わってない)
そう分かってしまう。
この拡散は、
殴る代わりだ。
触れない代わりに、
存在そのものを下げる。
遥は、視線を落とした。
(……俺は、こうやって生き延びた)
その事実だけが、
今は、
一番残酷だった。
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